大気境界層(読み)タイキキョウカイソウ(英語表記)atmospheric boundary layer

デジタル大辞泉 「大気境界層」の意味・読み・例文・類語

たいききょうかい‐そう〔タイキキヤウカイ‐〕【大気境界層】

地表面や海面から摩擦や熱などの影響を直接受けている大気の層。地上から高度1~2キロメートル程度までの層で、その上空自由大気と区別される。

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改訂新版 世界大百科事典 「大気境界層」の意味・わかりやすい解説

大気境界層 (たいききょうかいそう)
atmospheric boundary layer

地球の対流圏を大気の運動の特徴からみたとき,その鉛直構造を図1のように三つに分けることができる。地面近くになると,地面との摩擦のため空気の動きが抑えられ,風速が小さくなる。その風はまたその上の空気の動きを抑え,風速を小さくする。そのようにして地表面の摩擦の影響は上方へと及んでいく。さらに摩擦の影響は空気を激しく上下に混合し,風の乱れを生じる。乱れが生じなければ地面摩擦の及ぶ高さ,すなわち境界層高度は2mぐらいであるが,乱れが生じると数百mから数kmに及ぶことになる。この大気層を大気境界層あるいはプラネタリー境界層planetary boundary layerと呼んでいる。大気境界層のうち,地表面に接する数十mの気層は接地層と呼ばれ,熱や運動量の流束(フラックスflux)が高度によらずほぼ一定とみなされ,風速の鉛直分布は対数法則で近似できる。接地層のすぐ上の気層は通常エクマン層と呼ばれている。エクマン層の性質を調べてみよう。大気境界層を支配する方程式z軸を鉛直方向にとれば次のように書くことができる。

ここで(UV)は平均風速,(UgVg)は地衡風であり,fコリオリの力の鉛直成分である。いま現象が定常状態であり,水平方向の摩擦応力が拡散係数Kを使って次の式のように表されるとする。ここでKが高さに関係なく一定とし,地表(z=0)で平均風速が0(UV=0),高さが高くなれば(z→∞),平均風速は地衡風に等しくなる(UUgVVg)として方程式を解くと図2のようになる。これはエクマンらせんと呼ばれ,スウェーデンの海洋学者V.W.エクマンが1905年に初めて海流の運動を説明するために提案したものである。地表面近くでは地衡風の風向と約45°の差が生じているが,実際は,地表面の粗さ,成層の安定度およびfの値によって左右されることから,45°より小さい値を示している。

 この大気境界層中には全地球大気の約10%の質量が含まれているため,地球大気のエネルギーを議論する場合,特に重要である。さらに人間が生活をしているのはほとんどこの境界層の中であり,大気汚染,ビル風,地形性乱気流等にも大きく関係している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大気境界層」の意味・わかりやすい解説

大気境界層
たいききょうかいそう
atmospheric boundary layer

地表面の摩擦の影響を直接受ける大気層。層の厚さは昼と夜で変化する。また緯度によっても厚さが異なり,平均して高度 1kmまでの大気層をさす。エクマン層またはエクマン境界層とも呼ぶ。この大気層よりさらに高い層を自由大気と呼ぶ。大気境界層は自由大気と比べて風が弱く,気温の変化が大きいのが特徴である。また,地表面から高度 100mまでの大気境界層を接地境界層と呼ぶ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大気境界層」の意味・わかりやすい解説

大気境界層
たいききょうかいそう

境界層

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世界大百科事典(旧版)内の大気境界層の言及

【対流圏】より

…そこに注目して対流圏の成層を分けると,下から接地層(地面~高度約100m),エクマン境界層(高度約100m~約1km),自由大気(高度約1km~圏界面高度)の三つがある。接地層は地面摩擦が大きく,運動量や熱の乱流拡散が活発な気層,エクマン境界層はコリオリ力,気圧傾度力,地面摩擦力の三つの力がつりあって運動する気層で,これら二つの気層を大気境界層と呼ぶ。自由大気は摩擦力の影響が無視できるほど小さく,運動は理想流体で近似できる。…

※「大気境界層」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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