地球の対流圏を大気の運動の特徴からみたとき,その鉛直構造を図1のように三つに分けることができる。地面近くになると,地面との摩擦のため空気の動きが抑えられ,風速が小さくなる。その風はまたその上の空気の動きを抑え,風速を小さくする。そのようにして地表面の摩擦の影響は上方へと及んでいく。さらに摩擦の影響は空気を激しく上下に混合し,風の乱れを生じる。乱れが生じなければ地面摩擦の及ぶ高さ,すなわち境界層高度は2mぐらいであるが,乱れが生じると数百mから数kmに及ぶことになる。この大気層を大気境界層あるいはプラネタリー境界層planetary boundary layerと呼んでいる。大気境界層のうち,地表面に接する数十mの気層は接地層と呼ばれ,熱や運動量の流束(フラックスflux)が高度によらずほぼ一定とみなされ,風速の鉛直分布は対数法則で近似できる。接地層のすぐ上の気層は通常エクマン層と呼ばれている。エクマン層の性質を調べてみよう。大気境界層を支配する方程式はz軸を鉛直方向にとれば次のように書くことができる。
ここで(U,V)は平均風速,(Ug,Vg)は地衡風であり,fはコリオリの力の鉛直成分である。いま現象が定常状態であり,水平方向の摩擦応力が拡散係数Kを使って次の式のように表されるとする。ここでKが高さに関係なく一定とし,地表(z=0)で平均風速が0(U=V=0),高さが高くなれば(z→∞),平均風速は地衡風に等しくなる(U=Ug,V=Vg)として方程式を解くと図2のようになる。これはエクマンらせんと呼ばれ,スウェーデンの海洋学者V.W.エクマンが1905年に初めて海流の運動を説明するために提案したものである。地表面近くでは地衡風の風向と約45°の差が生じているが,実際は,地表面の粗さ,成層の安定度およびfの値によって左右されることから,45°より小さい値を示している。
この大気境界層中には全地球大気の約10%の質量が含まれているため,地球大気のエネルギーを議論する場合,特に重要である。さらに人間が生活をしているのはほとんどこの境界層の中であり,大気汚染,ビル風,地形性乱気流等にも大きく関係している。
執筆者:花房 竜男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そこに注目して対流圏の成層を分けると,下から接地層(地面~高度約100m),エクマン境界層(高度約100m~約1km),自由大気(高度約1km~圏界面高度)の三つがある。接地層は地面摩擦が大きく,運動量や熱の乱流拡散が活発な気層,エクマン境界層はコリオリ力,気圧傾度力,地面摩擦力の三つの力がつりあって運動する気層で,これら二つの気層を大気境界層と呼ぶ。自由大気は摩擦力の影響が無視できるほど小さく,運動は理想流体で近似できる。…
※「大気境界層」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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