日本大百科全書(ニッポニカ) 「演義小説」の意味・わかりやすい解説
演義小説
えんぎしょうせつ
中国の口語小説のうち、歴史を題材とした長編小説の呼び名。「演」は「衍(えん)」に通じ、正史などに記載されている史実(義)を、民間の伝説などで敷衍(ふえん)したものという意。中国の口語小説は、宋(そう)代に都市の盛り場で流行した講談の台本がもととなっているが、そのなかの歴史物(講史)のうち、「説三分(せつさんぶ)」とよばれてもっとも人気のあった三国時代の動乱を語る一連の講談が、まず『三国志平話』の名で小説化され、さらに元(げん)末明(みん)初に至って羅貫中(らかんちゅう)がそれを『三国志通俗演義』の名で大成したのが始まりで、その後、他の時代についても「演義」の呼称が踏襲された結果、それらをあわせて演義小説とよぶようになった。『西漢通俗演義』『隋唐(ずいとう)演義』など、ほぼ各時代がそれぞれ小説化されたが、ついに『三国志通俗演義』に及ぶものは現れなかった。なお、もっと短い一時期や、さらに個人の歴史を描く小説に「演義」の名を用いた例もある。
[今西凱夫]