日本大百科全書(ニッポニカ) 「無関心な人びと」の意味・わかりやすい解説
無関心な人びと
むかんしんなひとびと
Gli indifferenti
現代イタリア文学を代表する作家モラービアの処女長編小説。作者が弱冠20歳のとき書き上げ、1929年、ミラノの小さな出版社から自費出版した。ローマのあるブルジョア家庭――だらしない母親と、出入りする愛人レーオの関係に象徴される偽善と腐敗、娘のカルラと弟のミケーレは、それに対する反発から、その清算と自立を願うが果たさず、やがて周囲の大人たちと同じ「無関心」に堕(お)ち、ミケーレによるレーオ狙撃(そげき)の空転、カルラとレーオの結婚によってこの「無関心」は完成する。ファシズム独裁体制下の社会にはびこる「無関心な人びと」を、突き放した簡潔な筆致で書き留めた同作は、イタリア文学史上空前の「事件」となったが、批判的リアリズムのもつ鋭い社会的告発のゆえにファッショ当局の関心を引き付け、第五版で没収、作者と当局は恒常的な対立関係に入った。世界文学史的には、サルトル、カミュらに先行する「実存主義文学」の傑作と評価されている。
[古賀弘人]
『河島英昭訳『無関心な人びと』(岩波文庫)』