犯罪を原因として,一定の物の所有権をもとの所有権者から奪い,これを国庫に帰属させる処分。古くは,犯人の全財産を没収することも広く行われていた。西洋では,全財産の没収は,すでにローマ法にあったといわれるが,とくに中世から近世にかけて広く行われた。日本でも,鎌倉・室町幕府に〈収公(じゆこう)〉,江戸幕府に〈闕所(けつしよ)〉という家産没収があった。明治維新後も,1870年(明治3)までは〈財産籍没〉が認められていた。全財産の没収は過酷なので,現在これを認めるのは社会主義国などの一部の国にすぎず,ほとんどの国は個々の物の没収のみを認める。日本の現行刑法もそうである。すなわち,(1)犯罪行為を組成した物,(2)犯罪行為に供しまたは供しようとした物,(3)犯罪行為より生じた物,(4)犯罪行為により得た物,(5)犯罪行為の報酬として得た物,(6)上記の(3)(4)(5)の対価として得た物について,没収が認められる(刑法19条1項)。没収は,その物が犯人以外の者に属さないときにかぎってすることができる。ただし,犯罪ののち,犯人以外の者が事情を知りながらその物を取得したときは,犯人以外の者に属する場合でも,没収することができる(19条2項)。なお,拘留・科料のみにあたる罪については,特別の規定がないかぎり,上記の(1)の物以外は没収できない(20条)。(3)(4)(5)(6)の物について,費消などによってその全部または一部を没収することが不可能なときは,その価額を追徴することができる(19条の2)。没収の対象物が被告人以外の第三者の所有に属する場合は,その者を当該被告事件の手続に参加させることになっている(〈刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法〉1963公布)。没収は,死刑,懲役,罰金などの本刑(主刑)に付加する付加刑であり(刑法9条),没収するか否かは裁判所の裁量による。ただし,賄賂罪の賄賂などは,必ず没収することになっている(刑法197条の5)。
ところで,没収は現行法上は形式的には刑罰の一種とされているが,実質的には保安処分に近い面がある。上記の(1)(2)(3)の物は財産的価値の少ない場合も多く,これを没収する目的は,これが再度犯罪に使われることを防ぐことにあるとみられるし,第三者からの没収を認めている点も,刑罰としては説明できない。そこで,諸外国の立法例には,没収を保安処分としているものもある。改正刑法草案(1974)は,没収を〈刑〉の中に含ませないで独立に規定し,刑が科せられない場合にも没収を〈独立の処分〉として言い渡しうるものとしている(同草案74条以下)。なお,特別法の中には,没収に関する特別規定をおくものがあり,これらには,没収の要件が刑法と異なったり,必ず没収しなければならないとしているものが少なくない。これには,法的に問題のあるものも多い。また,刑法的なものでない,行政処分としての没収(未成年者喫煙禁止法2条,未成年者飲酒禁止法2条)もあるし,供託物の国庫帰属を没収と呼ぶ場合もある(公職選挙法93条)。
執筆者:平川 宗信
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刑法上の用語としては刑罰の一種で、罰金、科料とともに財産刑の一つであるが、主刑を科す場合に、これに付加してのみ科することができる付加刑である(刑法9条)。没収が行われる理由は、主としてその物から生じる社会的危険を防止するためと、犯罪による利得を犯人に保持させないためであり、刑罰というよりも保安処分に近い。前者の理由から対象となるのが、犯罪行為を組成した物(たとえば、偽造文書行使罪における偽造文書)や、犯罪行為に供し、または供しようとした物(たとえば、殺人に用いられた凶器)であり、後者の理由から対象となるのが、犯罪行為から生じた物(たとえば、文書偽造罪における偽造文書)、犯罪行為によって得た物(たとえば、賭博(とばく)によって得た財物)、犯罪行為の報酬として得た物(たとえば、堕胎手術の謝礼として得た物)、それにこれらの物の対価として得た物(たとえば、それを売って得た代金)などである(同法19条1項)。没収できるのは原則としてその物が犯人以外の者に属さないときに限られるが、犯罪のあと犯人以外の者が情を知ってその物を取得したときは、犯人以外の者に属するときでも没収できる(同法19条2項)。前述の物につき、消費などによりその全部または一部を没収することが不可能なときは、その価額を追徴することができる(同法19条の2)。
なお、関税法(脱税・密輸)、酒税法(密造など)にも没収・追徴の規定がある。また、物や保証金などを所有者から国庫に強制的に収めさせる処分は没取といい、没収とは区別される。さらに、捜査機関が裁判所の令状に基づいて証拠物または没収すべき物の占有を所有者から取得する行為は押収という。
[大出良知]
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…やがて,フランス刑法を範とした旧刑法(1870公布)は,きわめて多様な自由刑を認めたために,刑名も多くなった。死刑,徒刑,流刑,懲役,禁獄(以上,重罪の主刑),禁錮,罰金(以上,軽罪の主刑),拘留,科料(以上,違警罪の主刑),および,剝奪公権,停止公権,禁治産,監視,罰金,没収(以上,付加刑)がそれであった。現行刑法(1907公布)は,刑の種類をはるかに制限し,徒刑(とけい),流刑(いずれも,犯罪人を離島などの遠隔地に送致し,その地において有期または無期間滞在させる刑。…
…家督相続に際して,数人の子のだれを家督に選ぶか,財産を分割譲与するに当たって,相続人の選定,相続分の多少をどうするか,すべては被相続人の意のままであって,女子を家督に選ぶことも,幕府に忠勤奉公する長男を財産相続からはずすことも,ほとんど被相続人の自由であった。 次に,法の内容に立ち入っていえば,家業を継がせる目的で養子を迎える場合には,律令の規定で禁じられた身分の者でもかまわないとか,同様の目的で迎えられた養子は,律令の規定に反して,養父の遺産を独占的に相続することができるなどは,家業継承を第一義として,律令法を積極的に廃棄した公家法の典型的な事例であり,女子が父から譲り受けた財産が婚姻によって婚家に流れることを防ぐために,女子に対する財産譲与に一期分(いちごぶん)(死去の後は実家の惣領に返還する)の条件を付けるとか,妻が夫と死別した後で他家に再婚する場合は,前夫から譲られた財産を持参してはならないなどの制限規定や,罪によって没収された所領について,被没収者の同族・子孫には,後日(ときには数十年から100年に及ぶ長年月の後)これの再給付(返還)を求める権利が留保されている(潜在的闕所(けつしよ)回復権)とする法慣習などは,家産の流出・減少を防ぎ,ときにはいったん流出したものの再取得をも可能にする武家法の具体例である。
[団体維持の理念]
第2の団体維持の理念については,さきにも挙げた商品関係の座法,芸能関係の座法,地縁共同体の掟,宗門・僧団の制規などに明らかなように,中世社会では団体への帰属意識が強く,勢い,団体の成員と非成員との間に厳然たる身分の壁を設けて(ときには,その中間に准成員の身分を設けることもあったが,その場合も准成員は成員身分に近く,非成員との間の身分の壁は厚かった),成員の特権を守ることによってその団体を維持しようとする傾向が強かった。…
…【関口 裕子】
[中世]
《御成敗式目》の11条には,妻がその里方から相伝した所領について,次のような規定が見えていた。すなわち,その夫になんらかの罪科があって所領の没収を受けるとき,妻妾の所領も同様な扱いを受けるかどうかという問題について,もし夫の起こした犯罪が,〈謀叛殺害幷山賊海賊夜討強盗等〉の重科であるときには,夫と同罪に扱われるが,夫の犯罪が軽罪のときには,妻の所領は没収されることはない,というのであった。とするならば,この規定から,妻の所領が夫からある程度独立した存在であったことが知られるであろう。…
※「没収」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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