日本大百科全書(ニッポニカ) 「燕子箋」の意味・わかりやすい解説
燕子箋
えんしせん
中国、明(みん)代の伝奇(戯曲)作品。作者は明末清(しん)初の人阮大せい(げんだいせい)。唐代の士人霍都梁(かくとりょう)の絵が、手違いから礼部尚書の娘酈飛雲(れいひうん)に渡り、そこに都梁と並んで描かれた妓女(ぎじょ)華行雲(かこううん)が自分の姿そのままであることに驚いた飛雲が詞(し)を題したのを、燕(つばめ)がくわえて持ち去り、都梁に拾われるというのでこの題名がある。都梁は友人に陥れられて出奔し、おりからの安禄山(あんろくざん)の乱のなかで飛雲と行雲もそれぞれに流浪して、辛苦のすえに団円となる。明末を代表する戯曲にあげられるが、容貌(ようぼう)と名前の似た2人の女がともに1人の男に嫁するまでの物語は奇巧を極め、この時代に流行した才子佳人小説と好尚を同じくしており、文化爛熟(らんじゅく)の時代の精神的退廃を感じさせる。
[傳田 章]