…本来この種の訴訟は当事者の実意により相対で解決すべきものであるとして,幕府は和解(内済(ないさい))を強く指導した。訴訟手続上は出訴最低額の制限,原告だけの申立てによる内済の成立(片済口(かたすみくち))などのほか,とくに債務の長期分割弁済(切金(きりがね))に顕著な特徴があり,また訴訟がおびただしくなると相対済令(あいたいすましれい)が出されるなど,債権保護の点で本公事よりも冷遇されていた。しかし1843年(天保14)老中水野忠邦による天保改革に際して金公事法制は改正され,債務者が百姓町人の場合については切金を適用せず総財産に対する強制執行(身代限(しんだいかぎり))を速やかに行うようにするなど,先進的な大坂町奉行所の法の導入によって債権保護が強化され,以後本公事との差異は実質的に少となって明治に及んだ。…
…内済は裁判のどの段階においても行うことができ,審理の進行中も裁判役人はつねに内済の成立に努め,内済の可能性があるうちは何度も〈日延願(ひのべねがい)〉を許す。〈論所(ろんしよ)〉(地境論=境相論,水論など)や〈金公事(かねくじ)〉(借金銀など利息付,無担保の金銭債権に関する訴訟)ではとくに強く内済が勧められ,制度的にも,用水論などでは訴状に裏書(目安裏判(めやすうらはん),目安裏書)を与える前に現地での熟談内済を命じ(場所熟談物),金公事では目安裏書に内済勧奨文言を加え,あるいは原告だけの申立てによる内済(片済口(かたすみくち))を認めるなど,特別な手続が定められていた。刑事裁判手続(吟味筋(ぎんみすじ))においても場合によって内済が許される(吟味(願)下げ)。…
※「片済口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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