裁判所(読み)さいばんしょ

精選版 日本国語大辞典 「裁判所」の意味・読み・例文・類語

さいばん‐しょ【裁判所】

〘名〙 (「さいばんじょ」とも)
① 司法権を行使する国家の機関。日本には、憲法の設置する最高裁判所と、法律の定めるところにより設置する下級裁判所高等裁判所地方裁判所家庭裁判所簡易裁判所)とがある。官署としての裁判所。
太政官日誌‐慶応四年(1868)四月四日「不法之振舞有之候はば早速其筋裁判(サイバン)所又は其向々之役所へ可訴出候」
② 訴訟の審理・裁判を担当する、一名もしくは数名の合議体による裁判官をいう。訴訟法上の裁判所。

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デジタル大辞泉 「裁判所」の意味・読み・例文・類語

さいばん‐しょ【裁判所】

司法権を行使する国家機関。具体的事件について公権的な判断を下す権限をもつ。最高裁判所、および下級裁判所の高等・地方・家庭・簡易の各裁判所がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「裁判所」の意味・わかりやすい解説

裁判所 (さいばんしょ)

具体的事件に対して公権的に法律的裁判を下す機関。この意味では国家間の紛争について裁判をする国際裁判所も含まれるが,通常は国内における国家機関としての裁判所を指す(〈国際裁判〉の項参照)。以下後者について述べる。

 現代日本の裁判所は,最高裁判所を頂点とした統一的な裁判所系列をなして存在する。このような裁判所のあり方は,憲法が基本的に定める。

裁判所という用語の示す概念を要説すると,次のような分化が指摘できよう。まず,憲法上に特別裁判所の概念が示されており,これは通常裁判所と対立するものである。非常の事件が起きたときにその事件だけのために臨時に設置される裁判所や,常設でも特殊な性質の事件のみ,あるいは特別身分の者にかかわる事件のみを対象とする裁判所を特別裁判所という。現行憲法は,最高裁判所の系列外に特別裁判所を設置することはできないとしている(76条2項)。かつて明治憲法の下では,陸海軍の軍法会議,皇族間の民事訴訟等のために置かれる皇室裁判所などがあった。

 次に司法裁判所の概念に対立する行政裁判所があり,これは行政権の内部に設けられる特別裁判所を指す。やはり明治憲法の下にはこの意味の行政裁判所が設けられていた。そして行政官庁の違法な処分が国民の権利を侵害したときでも,通常の司法裁判所に救済を求めて出訴することは許されなかった。しかも行政裁判所が受理する事項はごくせまく制限されていたのである(〈行政裁判〉の項参照)。現在では,行政事件訴訟法の定める手続により通常の司法裁判所が広く行政事件を処理するしくみになっている(〈行政訴訟〉の項参照)。なお,理論上は最高裁の系列下に地方裁判所などと並立する司法裁判所の一種として行政事件だけを専門とする裁判所を設置することも,そう定める法律が制定されれば可能である。同様の例として,すでに家庭裁判所という専門の裁判所が裁判所法に基づき設置されている。一般に司法裁判所であるための条件は,上訴が最終的に最高裁判所に提起できること,裁判官の任命が最高裁判所の指定に基づくことなどを主とする。

 さらに別の観点から,〈国法上の裁判所〉と〈訴訟法上の裁判所〉という意味の区別を立てることも必要である。建物その他物的設備,執務している要員などを包括して一単位の裁判所(例,新宿簡易裁判所,大阪地方裁判所,東京家庭裁判所等)が観念されるが,このとき裁判所という語は国法上の裁判所を意味している。これと異なり,たとえば,ある特定の事件につき東京地方裁判所に訴えが提起された場合にそれを審理し,判決等を下す機関としてその東京地方裁判所の内部に裁判所を考えるとき,この裁判所は訴訟法上の裁判所を意味している。訴訟法上の裁判所は数人の裁判官による合議体をもって構成されることも,また単独の裁判官により構成されることもある。訴訟法上の裁判所の首席として活動する地位が裁判長である。受訴裁判所が訴訟審理,とりわけ口頭弁論期日公判期日を開くための場所として,国法上の裁判所の中に法廷が用意されている。

現代の裁判は国家の権力作用として行われる。憲法は国家権力の作用を立法,行政,司法の3種に区分し,司法権をになう国家機関として,通常裁判所かつ司法裁判所に属する単一系列の裁判所群を設置し,最高裁判所がその最上位を占めるべきこととしているのである(76条)。全体としての裁判所は,行政権の主体である内閣,立法権の主体である国会と対等の立場にあり,またこれら三者は国政に関して相互に分担かつ抑制しあう関係をもつとされている(〈権力分立〉の項参照)。

国家機関として位置づけられるこのような裁判所は,日本では明治維新による国政の中央集権化ならびに国家体制の近代化の一環として,西欧の制度を学ぶ形ではじめて確立された。当初はフランスのしくみを採り入れ,やがて明治憲法制定のころになるとドイツのあり方にも強い影響を受けた制度がつくられた。明治憲法下では,通常裁判所として大審院,控訴院,地方裁判所,区裁判所が置かれていたほか,前記のように各種の特別裁判所が置かれていた。現行憲法になると最高裁判所がアメリカに範をとって設立されたほか,特別裁判所が廃止されるなどの改革がなされた。現在の日本の裁判所制度の特色は,裁判所の種類が比較的少なく,裁判権の秩序が単純な体系原理によっていること,国内が均一の裁判権域として単一の裁判所系列により占められていることなどの点にみられる。外国の場合には,連邦の裁判所と州の裁判所が別系列として並存したり,裁判事務の種類や対象事件の内容に応じ多種類の裁判所が用意されていたり,あるいは特別の地域や団体などのために前近代的な原理に基づく特別裁判所が特権的に残されていたりすることもある。

現代日本の裁判所の種別,構成,権限などにつき定めるのは,基本的には憲法,さらにその下に制定された裁判所法である。憲法は最高裁判所と下級裁判所が設けられるべきこと,および最高裁判所の構成,権限に関する要点のみを明らかにするにとどまる。裁判所法は最高裁判所に関しさらにくわしく定めるとともに,下級裁判所として高等裁判所地方裁判所,家庭裁判所および簡易裁判所の4種を設けること,およびそれらの構成,権限,裁判所要員などの事項に関し詳しい規定を設けている。

 裁判所の職員には,裁判官のほか裁判所書記官裁判所調査官,裁判所事務官,執行官裁判所技官などがある。裁判所書記官は,訴訟を含め裁判所のすべての手続を記録した調書の作成,管理を中心とした重要な職務を担う。裁判所調査官は,裁判官を補佐して事件の判断に必要な調査を受け持つ。最高裁判所では,判事の資格を有する者がこの職についている。家庭裁判所調査官は,法律上の概念としては裁判所調査官とは別の存在で,社会学,心理学,精神医学などの専門学識を有する者がこれにあてられ,家庭裁判所独自のはたらきを支えている。執行官は,主として強制執行をはじめ不動産競売など民事執行手続において必要となる事実処分の要素の濃い仕事を受け持っている。

 裁判所の職員も,また事件につき裁判を下すことなど裁判所の活動を求める当事者つまり国民も,さらに当事者を代理し,あるいは弁護する弁護士なども法律の定めるところに従い行動しなければならない。そのような規律を定める手続法の基本的なものが刑事訴訟法民事訴訟法,非訟事件手続法,家事審判法,少年法,民事執行法などである。この関連では裁判所自体が規則を制定することもできる(裁判所規則)。近代立憲制の下にある各国の裁判所に共通の点は,裁判官の独立がとくに強く保障されていること,民事,刑事の裁判が同一の裁判所の管轄とされていることなどであるが,日本の場合は行政事件訴訟も民事訴訟のわく内に入るものとされており,行政事件訴訟法は民事訴訟の手続を前提にしつつ多少の特則を定める手続法である。

〈裁判の公開〉ということは,近代法制にみられる基本的要請の一つであり,日本国憲法も明文を掲げてこれを保障している(37条1項,82条1項。公開裁判)。裁判の公開は実際面では,公衆が,訴訟手続の進行と判決の言渡しを傍聴できるということ,および訴訟記録を公衆が閲覧できるということを意味する。したがって裁判を傍聴したい者はとくに裁判所の許可を得たり,料金を払ったりすることなく,自由に傍聴できる。ただし,傍聴席に限りがあるため,多数の傍聴者が予想される事件については,傍聴券が事前に発行され,それを持っている者だけが傍聴できるという場合もある(裁判所傍聴規則1条1号)。反面,そうした公開により手続の正常な進行が妨げられたり,裁判の内容に不当な影響が及んだりすることがあってはならない。訴訟記録を管理する裁判所書記官は,裁判所の執務に支障があるときは閲覧させないでよいと定められている(民事訴訟法91条5項,刑事訴訟法53条1項但書)。また裁判長は,法廷警察権と呼ばれる強権を行使することが認められており,事件の関係人であれ傍聴人であれ,法廷内の威信を脅かしたり秩序を乱したりする者があれば,この法廷警察権により規制することができる(〈法廷秩序〉の項参照)。
裁判
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「裁判所」の意味・わかりやすい解説

裁判所
さいばんしょ

司法権(裁判権)を有する国家機関、または、一人もしくは複数の裁判官により構成される裁判機関の単位をいう。

 裁判所という語は、多義的である。第一には、国の組織としての裁判所の意味で用いられ、司法行政上の単位となる。この場合にも、さらに、裁判官会議という形での国家機関をさす官庁としての裁判所を意味する場合と、その補助機関である裁判官以外の職員を含めた官署としての裁判所を意味する場合とがある。裁判所の庁舎を裁判所とよぶ場合もこれに含めることができる。このような意味での裁判所の語は、裁判所法で用いられることが多く、国法上の意味の裁判所とよばれている。第二には、官署としての裁判所において、裁判機関として審判を行う単位としての裁判所であり、一人の裁判官からなる一人制の裁判所と複数の裁判官で構成される合議制の裁判所がある。裁判機関としての裁判所であるから、訴訟法上の意味の裁判所とよばれ、訴訟法で用いられることが多い。憲法上、司法権は裁判所に属しており、その裁判所は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所とされている(憲法76条1項)。それ以外に特別裁判所あるいは行政裁判所を設けることは認められていない(憲法76条2項)。

[田口守一]

種類

最高裁判所と下級裁判所があり、後者は、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所および簡易裁判所とする(裁判所法2条1項)。下級裁判所の設立、廃止および管轄区域は、別に法律でこれを定めることになっていて(同法2条2項)、その法律として、「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」(昭和22年法律第63号)が制定されている。日本では三審級の制度をとっているので、一審裁判所、二審裁判所、三審裁判所の区別がある。また、裁判の種類に応じて、判決裁判所、決定裁判所、命令裁判所が区別される。

 2009年(平成21)より実施された「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平成16年法律第63号)により、一定の対象事件について、裁判員と裁判官(構成裁判官という)との合議体による裁判所が創設された。日本でも陪審法(大正12年4月18日法律第50号)により、1928年(昭和3)10月1日から1943年4月1日に陪審法の施行が停止されるまで、一種の陪審裁判が行われたことがあるが、定着するに至らなかった。新たに創設された裁判員制度は、国民のなかから選任された裁判員が、裁判官との合議により、事実の認定、法令の適用および刑の量定に関与するものであり(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律6条1項・3項)、陪審員のみで有罪無罪の判断を行う陪審制度とは大きく異なる。

[内田一郎・田口守一]


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百科事典マイペディア 「裁判所」の意味・わかりやすい解説

裁判所【さいばんしょ】

具体的事件につき裁判権に基づいて裁判を行う機関。日本には,憲法で設置された最高裁判所と裁判所法(1947年)による下級裁判所とがあり,後者は,さらに高等裁判所地方裁判所家庭裁判所簡易裁判所に分かれる。その他の特別裁判所は認められないが,憲法上の例外として,裁判官に対する弾劾裁判所が国会に設けられている。しかし,訴訟法で裁判所というときには,具体的事件を審理裁判するための1名または数名の裁判官で構成される裁判機関をさす場合が多い。なお,国際社会の裁判所としては国際司法裁判所などがある。
→関連項目裁判を受ける権利司法機関

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「裁判所」の意味・わかりやすい解説

裁判所
さいばんしょ
court

通常は裁判を行うために設置された国家機関をいう。裁判所の機構や種類は国によって異なる。日本の裁判所は,憲法の直接設置する最高裁判所と法律の定めるところにより設置する下級裁判所とから成る (憲法 76条) 。特別裁判所を設けることは許されないが,行政機関は前審としてならば裁判を行うことができ (76条) ,また裁判官弾劾裁判所は憲法自身の認めた例外である (64条) 。裁判所は,裁判官その他の職員により構成されるが,裁判所とは特に具体的に裁判を行う裁判官1名または数名で構成される合議体をさしても用いられる。訴訟法上の裁判所がこれである。

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とっさの日本語便利帳 「裁判所」の解説

裁判所

国内法上、司法権を行使する国家機関。最高裁判所・高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の五種ある。憲法上、裁判官弾劾裁判所が国会に設けられている。

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