江戸幕府法上,民事訴訟手続(出入筋(でいりすじ))で裁判される訴訟事件(出入物(でいりもの),公事)のうち,金公事(かねくじ)に対する通常訴訟事件の総称。また,その訴訟手続。金公事(借金銀,売掛金などおもに利息付・無担保の金銭債権に関する訴訟)以外の出入物はすべて本公事であって,本公事のほうが訴訟手続上債権の保護に厚いが,ほかに仲間事(なかまごと)という裁判上まったく保護されない債権関係も存した。質地,家質(かじち),小作滞(とどこおり),買預米,為替金,両替金,預金,奉公人給金,夜具滞,店立(たなだて)など,無利息または物的担保を伴う金銭債権や物の引渡しなどに関する給付訴訟,地境論(境相論),用水論(水論),山論,秣場(まぐさば),新田,川除(かわよけ),婚姻,離縁,養子,家督,座席,役儀など,土地や身分などに関連する確認・形成訴訟的なもののほか,不法,人殺,疵付(きずつけ),密通,強淫などの可罰的事案が,吟味筋(ぎんみすじ)(刑事裁判手続)ではなく出入筋で裁判される場合も,本公事である。出入筋においては一般に和解(内済(ないさい))による紛争解決が奨励され,金公事はとくにその傾向が強いが,本公事でも地境論,水論などの〈論所〉では内済を強く勧め,そのための特別な手続も定められていた。
執筆者:神保 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
江戸時代,出入筋の手続きによって争われた私人相互の争いのうち,金(かね)公事を除くすべてのもの。または,その民事訴訟手続き。山論・水論・地境論などの論所,家格・席順など身分をめぐる争いや家督・相続をめぐる争い,質地・家質などの担保つき債権もしくは無利子債権を対象とした争いなど,内容は多岐にわたる。本公事の裁許結果は,人・物について,秩序の確認や新たな形成をともない,人々の生活に与える影響も大きかったので,金公事に比べて公権力の関与が強く,訴権の保護も厚かった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…江戸時代,債権・債務など私権にもとづく訴訟にたいする幕府の扱いは,その種類によって差異があった。いまそれらを訴権(訴訟請求権)の強弱によって分けると,(1)仲間事,(2)金公事,(3)本公事となる。(1)は共同出資による利潤配分に関するもので,訴権なしとされた。…
…子が親を,従者が主人を訴えることは原則として禁止された。出入筋には,その対象により本公事(ほんくじ),金公事(かねくじ)の別があり,ほかに仲間事(なかまごと)と称する一種の請求がある。金公事は利息付無担保の金銭債権の争いで,本公事はその他の身分,地所,用水,家督,質地,家質(かじち),為替,小作人,奉公人,借地借家,村法違反等で,金公事が当事者間の給付の問題であるのに対し,人および物に対する秩序の形成,確認を伴い,官憲が介入する必要度が高い。…
※「本公事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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