もめごとなどを表沙汰にしないで解決すること。とくに江戸時代,和解することをいう。広義には裁判外の示談も内済というが,裁判上の内済は,奉行所の承認手続(済口聞届(すみくちききとどけ))を経ることによって判決(裁許(さいきよ))と同様の効力が与えられる。民事裁判手続(出入筋(でいりすじ))においては,公権的・法規的裁断である裁許よりも,両当事者の互譲によって具体的合意を導く内済のほうが,紛争解決の原則的方法として奨励された。その背景には,私的紛争に関する裁判は為政者の恩恵的行為であるという思想とともに,現実的な裁判機関の不備,非能率や私法法制の未発達などの事情があったが,このことがまた〈権利〉意識や〈法〉観念の発達を妨げることにもなったといわれる。内済は裁判のどの段階においても行うことができ,審理の進行中も裁判役人はつねに内済の成立に努め,内済の可能性があるうちは何度も〈日延願(ひのべねがい)〉を許す。〈論所(ろんしよ)〉(地境論=境相論,水論など)や〈金公事(かねくじ)〉(借金銀など利息付,無担保の金銭債権に関する訴訟)ではとくに強く内済が勧められ,制度的にも,用水論などでは訴状に裏書(目安裏判(めやすうらはん),目安裏書)を与える前に現地での熟談内済を命じ(場所熟談物),金公事では目安裏書に内済勧奨文言を加え,あるいは原告だけの申立てによる内済(片済口(かたすみくち))を認めるなど,特別な手続が定められていた。刑事裁判手続(吟味筋(ぎんみすじ))においても場合によって内済が許される(吟味(願)下げ)。内済の伝統は明治以後も〈勧解(かんかい)〉〈調停〉の制度に受け継がれた。
執筆者:神保 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
通常,江戸時代に第三者が調停・仲介して紛争当事者を和解させること。その第三者の行為を「扱う」という。内済は,提訴前はもちろん,提訴後裁判途中でも行うことができた。おもに出入筋で行われたが,吟味筋でも喧嘩・口論,傷害,不義など私的性格の強い事件は,加害者・被害者双方が内済して争いをやめ,吟味下げ(吟味打切り)を願うこともあった。内済が私的な紛争解決の基本とされた背景には,社会秩序における調和の尊重,私法や裁判制度の不備・未発達,法の厳格な適用による解決より個別具体的な解決のほうが好ましいとする社会通念,喧嘩は理非五分五分という観念などがあった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
江戸時代、裁判上の和解のこと。江戸幕府は、民事裁判ではなるべく両当事者の和解による訴訟の終了を望んだが、ことに無担保利子付きの金銭債務に関する訴訟、すなわち金公事(かねくじ)においては、強力に内済を勧奨した。内済は訴訟両当事者連判の内済証文を奉行(ぶぎょう)所に提出して、その認可を受けることによって有効となったが、金公事の場合には片済口(かたすみくち)と称して原告が作成した内済証文だけで足りた。
[石井良助]
…【勝俣 鎮夫】
[近世]
取扱ともいい,仲介者を噯人,扱人と称した。江戸幕府は,私的紛争は当事者間で話し合い,互譲,解決する内済(ないさい)を原則とし,原告被告の主張の当否を判断して裁許(さいきよ),すなわち判決を下すのは,やむをえない場合に限られた。裁判外はもとより裁判中にも役人は内済が成立するように誘導し,ときに威圧を加え,扱人は役人の意を汲んで両当事者を納得させるように努めた。…
…江戸時代の民事裁判手続(出入筋(でいりすじ))において,和解(内済(ないさい))が成立すること。民事事件(公事(くじ),出入物)では奉行所は終始内済を勧めるのであって,裁判のどの段階においても内済することが可能である。…
※「内済」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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