和解(読み)ワカイ

デジタル大辞泉 「和解」の意味・読み・例文・類語

わ‐かい【和解】

[名](スル)
争っていたもの、反発しあっていたものが仲直りすること。「対立する二派が和解する」
民事上の紛争で、当事者互い譲歩して争いをやめること。契約によるものと、裁判所においてなされるものとがある。
わげ(和解)
[補説]書名別項。→和解
[類語]仲直り和睦和議和平和戦講和休戦停戦終戦矛を収める水に流す元の鞘に収まる

わ‐げ【和解】

わかい(和解)1」に同じ。
「君の―を勧むるや誠に謝すべしと雖も」〈織田訳・花柳春話
外国文を日本語で解釈すること。また、その解釈。
阿蘭陀オランダの書をも―なしたらば」〈蘭学事始

わかい【和解】[書名]

志賀直哉中編小説。大正6年(1917)10月、「黒潮」誌に発表。翌年刊行の作品集「夜の光」に収録。著者自身とその父親との、不和と和解を描いた私小説

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「和解」の意味・読み・例文・類語

わ‐かい【和解】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 争いをやめて仲直りすること。和睦。わげ。また、仲裁すること。
      1. [初出の実例]「言は雖有疑心然れども事已、和解しつるうへはと云義なり」(出典:史記抄(1477)六)
      2. [その他の文献]〔史記‐韓王信伝〕
    2. 心がなごやかになること。なごやかに打ちとけること。
      1. [初出の実例]「旋陀女といふ后、彼の岩屋へ来り、色をもって誑かし、かの通力自在の仙人忽ち和解(わかい)す」(出典:歌舞伎・成田山分身不動(1703)三)
      2. [その他の文献]〔荀子‐王制〕
    3. 民事上の紛争について、当事者が、互いに譲歩して争いをやめる契約。民法上の和解契約のほか、訴えを起こす前に当事者が簡易裁判所に出頭してする即決和解、訴訟の係属中に裁判官の仲裁によってする裁判上の和解などがある。〔仏和法律字彙(1886)〕
    4. キリスト教で、神の恩恵として、人間に与えられるもの。イエスキリスト十字架の死による贖罪によって成就されるとしている。
    5. わげ(和解)
  2. [ 2 ] 小説。志賀直哉作。大正六年(一九一七)発表。長年にわたる父との確執が次第に氷解していくまでの主人公順吉の心の動きを描く。骨肉の愛情と憎悪の相剋にからむ苦悩と焦燥を描いた私小説。

わ‐げ【和解】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 他の国の言語を日本語で解釈すること。また、むずかしい文章や文字をわかりやすく解き明かすこと。また、その解釈。
    1. [初出の実例]「今唯随て之を和解(ワゲ)し、更に文彩を用ず」(出典:通俗酔菩提全伝(1759)凡例)
  3. 仲直りすること。わかい。〔新撰字解(1872)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「和解」の意味・わかりやすい解説

和解(法律)
わかい

「私法上の和解」と「裁判上の和解」とがあり、後者はさらに「訴訟上の和解」と「起訴前の和解」に分かれる。

淡路剛久

私法上の和解

当事者が互いに譲歩して、その間に存する争いをやめることを約する契約(民法695条)。交通事故などは、示談で解決される場合が多いが、この示談が当事者の互譲を含んでいる場合には、和解の一種である。和解によって当事者間の法律関係は確定し、当事者は和解以前の主張をなしえなくなる。この点について民法は、和解によって当事者が権利を有し、または権利を有さずと確認した場合に、反対の確証が出たときは、和解によって権利が移転し、または消滅したものと規定する(同法696条)。和解の際に錯誤があった場合、錯誤による無効(同法95条)を主張できるかどうかが問題となるが、錯誤が争いの目的となった事項に関する場合(たとえば、債務の額が争いとなり、その債務の額について錯誤があったなど)には無効を主張しえないが、争いの目的とならず当然の前提とされていた事項に関する場合(たとえば、債務が存在することを当然の前提とし、額につき争いがあったが、実は債務が存在せず、その点に錯誤があったなど)には無効を主張しうる、と解されている。

[淡路剛久]

裁判上の和解

訴訟上の和解

訴訟上の和解は、訴えの提起後、訴訟係属中に受訴裁判所受命裁判官または受託裁判官の面前において、当事者が互いに譲歩し、訴訟の全部または一部について、争いを終了させようとする訴訟法上の合意をいう。和解それ自体の内容は、民法上の和解と同じであるが、訴訟手続の一部として行われるため「訴訟上の和解」と称される。この和解は、民事訴訟の制度目的からみて好ましいので、民事訴訟法はそれを促進するため、訴訟の進行がどの程度になされているかを問わず、当事者は和解できると同時に、裁判所もいつでも和解を試みることができ、そのために当事者の出頭を命ずることができる、と規定している(89条)。訴訟上の和解は、当事者双方が裁判官の面前において、和解の条項および和解の合意が成立した旨を陳述することによって成立し、裁判所書記官が、その要領を記載して和解調書を作成すると、その記載は確定判決と同一の効力を有する(267条)ことになる。したがって、それにより和解の成立した範囲で訴訟手続は終了する。また必要があれば、その和解調書を債務名義として強制執行もできる(民事執行法22条)。

[内田武吉・加藤哲夫]

起訴前の和解

訴訟上の和解に対して起訴前の和解は、即決和解または訴訟防止の和解ともいう。その手続は、民事上の争いについて一方の当事者が、相手方の普通裁判籍所在地の簡易裁判所に、請求の趣旨・原因と紛争の実情を表示して申し立てることにより始まる(民事訴訟法275条1項)。この申立てが適法であるときは、和解期日を定めて当事者を呼び出す。この期日に和解が成立したときは、裁判所書記官はその和解条項を調書に記載しなければならない(民事訴訟規則169条)。この調書は、訴訟上の和解の場合と同様に確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法267条)。和解が成立しない場合でも、出頭した当事者双方が申し立てるときは、裁判所はただちに訴訟としての弁論を命じる。この場合には、和解の申立人が和解を申し立てたときに訴えを提起したものとみなされる(同法275条2項)。起訴前の和解は、訴え提起前に訴訟を予防するためになされる点で、訴訟手続を終了させる訴訟上の和解と異なるが、その要件、方式、効果がほぼ同じなので、両者をあわせて裁判上の和解と称している。

[内田武吉・加藤哲夫]


和解(志賀直哉の小説)
わかい

志賀直哉(なおや)の代表的な中編小説。1917年(大正6)10月『黒潮(こくちょう)』に発表。19年3月新潮社刊行の『和解』に収録。父との久しきにわたった不和と一挙に訪れた和解をストレートに描いた私小説。先に発表した『大津順吉』(1912)、『和解』ののち視点を変えて発表した『或(あ)る男、其(その)姉の死』(1920)とともに中編三部作を形成。我孫子(あびこ)に住む主人公と祖母・父・義母の住む麻布(あざぶ)の家とのこだわりを内にはらんだ行き来、父の反対を押し切って結婚した妻の出産とそれに引き続く赤ん坊の死、さらに次の子の新たな出産、作品のなかで私怨(しえん)を晴らしたくない主人公の思いなど過去と現在が交錯する。最終的に自然な形での堅固な和解成立の経緯が力強く一気に描かれ、内心にもっとも忠実に生きようとする志賀の本質がよくにじみ出ている力作。

[紅野敏郎]

『『和解』(角川文庫・新潮文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「和解」の意味・わかりやすい解説

和解 (わかい)

紛争の当事者が互いに譲歩して紛争を自主的に解決すること。法律上,民法上の和解と裁判上の和解に大別される。

 民法上の和解は,当事者が互譲によってその間に存する争いをやめることを内容とする契約である(民法695条)。AのBに対する債権額につき,Aは100万円だと主張し,Bは50万円であるといって争い,結局70万円で折り合う,などというのがその例である。民法上の和解は示談とも呼ばれる。和解の対象となる争いは原則としてなんでもよいが,身分関係の争い(たとえば,親子関係の確認請求)のように当事者が自由に処分しえない権利関係は和解の対象とならない。和解は契約の一種であるから,契約の無効や取消しまたは解除に関する民法の一般法理が適用になる。和解の効果として,争いのあった当事者間の権利関係は,たとえそれが真実とくい違っていたとしても,和解した内容どおりに確定される(696条)。たとえば,前例で,その後になって,AのBに対する債権の額はやはりAの主張どおり100万円であったとの確証がでてきたとしても,これによってすでに成立した和解の効力が左右されることはない。これは,争いの対象となった事がら自体(債権の額)について,当事者に思い違いであったという錯誤に基づく無効の主張(95条)を封じたものである(これに対し,AがBに対し債権をもっていたという前提事実については,錯誤による和解の無効の主張が許される)。なお,紛争当事者間の和解の成立を公的な第三機関が仲立ちすることを斡旋という。労働委員会による労働争議の斡旋(労働組合法20条,労働関係調整法10~16条)がその代表的な例である。

 裁判上の和解には,起訴前の和解と訴訟上の和解の2種がある。いずれも和解内容が裁判所書記官によって調書に記載されると,この和解調書は確定判決と同一の効力をもつ(民事訴訟法267条)に至る点で,民法上の和解の効力よりはるかに強力である。起訴前の和解とは,訴えの提起を前提とせず,簡易裁判所に申し立て,その裁判官の面前で行う和解であり(275条),通常は事前に話し合いがついていて,それを確認して調書に記載するだけの手続なので即決和解とも呼ぶ。和解がととのわない場合,当事者双方の申立てがあれば訴訟に移行する。訴訟上の和解とは,訴訟の係属中に当事者が訴訟の目的につき互譲して訴訟を終了させる合意である。私的自治の範囲内の紛争は,もし当事者間で話し合いがつけばそれにこしたことはなく,あえて判決をする必要はないので,裁判所は訴訟の係属中いつでもこの和解を当事者に勧めることができる(89条)。裁判所が和解を勧めてもこれに応ずるか否かは各当事者の自由であるが,実際には第一審で民事通常事件の約3割が和解によって終了している。和解が成立すると和解調書が作られ,これが確定判決と同一の効力を有することは前述した。確定判決と同一の効力の内容の一つは,当事者が和解内容を無視する場合にはその内容を国家の執行機関の手で強制的に実現できるという執行力であり,その意味で和解調書は債務名義(強制執行を始動しうる文書)の一種であるが,これ以上にいかなる効力をもつか,とくに既判力をもつかについては争いがある。また,訴訟上の和解に無効や取消原因がある場合のその主張方法,また解除事由があって解除した場合のその後の処置については,学説上見解が対立している。

 なお,以上の和解と似て非なるものに和諧がある。これは,離婚訴訟の当事者が婚姻を維持するためまたは円満に協議離婚するため仲直りすることをいう(人事訴訟手続法13条)。婚姻事件では上述の訴訟上の和解は認められないが,和諧が成立すれば,これに基づいて訴えを取り下げることにより訴訟が終了する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「和解」の意味・わかりやすい解説

和解【わかい】

(1)民法上,当事者が互いに譲歩して,その間の争いをやめる義務を負う契約(民法695条)。いわゆる示談は,多く和解の性質をもつ。(2)民事訴訟法上,和解が裁判所の関与の下になされる場合を裁判上の和解というが,これには次の2種がある。民事紛争は自治的に解決されることが望ましいから,裁判所は訴訟中にも当事者に和解をすすめ,これで成立した和解を訴訟上の和解というが,紛争当事者には起訴をする前にも裁判所で和解をする道が開かれ,この和解を起訴前の和解(または即決和解)という。和解が成立すると和解調書が作られるが,これは確定判決と同一の効力をもつ(新民事訴訟法267条)。(3)労働法上は労働委員会不当労働行為事件の審理の際に,適当と思われるときはいつでも当事者に対し和解を勧告することができ,和解が成立すれば紛争はその和解内容に従って解決する。
→関連項目協定受命裁判官処分権主義調停

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

普及版 字通 「和解」の読み・字形・画数・意味

【和解】わかい

仲直り。〔史記、韓信伝〕秋、匈奴の頓(ぼくとつ)、大いに信を圍む。信數(しばしば)胡にして和解を求めしむ。、兵を發して之れを救ふ。

字通「和」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「和解」の意味・わかりやすい解説

和解
わかい
compromise; Vergleich

当事者が対立する主張を互いに譲歩し合って,その間の紛争を当事者間の話合いによって解決することを約束する契約。民法の規定によれば,和解は当事者双方が互いに譲歩し合って,争いをやめることを約する契約 (695条) であるとされるから,一方だけが譲歩する場合,和解ではない。和解は契約である以上,当事者が自由に定められる。したがって,互いの譲歩の結果,真実の権利関係と一致しない合意が行われても,和解の効力には影響がなく,かえって和解によって新たな権利関係が生じたものとされる。和解は訴訟提起前に裁判所で当事者がすることも,また紛争が訴訟となったのちに行うこともできる。このほか,裁判所で行われる民事調停,家事調停なども,当事者間の和解を基礎とする紛争処理方式である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 「和解」の解説

和解

民事上の紛争を当事者が互いに譲歩し合って自主的に解決すること。裁判によらずに当事者の話し合いで解決する民法上の和解は、示談とも呼ばれ、交通事故による損害賠償紛争などの多くはこの方式で解決されている。裁判上の和解には、紛争防止などのために簡易裁判所に申し立てる即決和解ないし起訴前の和解と、訴訟の途中で裁判官の勧めに応じたりして当事者が合意する訴訟上の和解とがある。近年では、地方裁判所に係る民事訴訟事件の3割強が和解で終了しており、判決と並んで、民事訴訟事件処理の両輪とされる。

(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内の和解の言及

【裁判】より

… ところで,一般に特定の事件の法的争点に結着を与えることは,第三者によって示された判断がそのまま当事者を拘束するものとして扱われるという,裁判に典型的な方式(裁定)によるほかに,次の方式によってもなされうる。すなわち,両当事者がある解決案(たとえば,一方が責任を認めてある額の賠償金を支払うといった)に同意し,この同意が以後当事者を拘束する最終的な決定として扱われるという方式(和解)である。そして,この和解が第三者の関与の下に行われ,かつ第三者が自己の判断を当事者に示し,または同意を促すという場合がある。…

【贖罪】より

…第2イザヤは〈神のしもべ〉と呼ぶ仲保的な存在の死を通して贖いが成ることを告げた(《イザヤ書》53章)。 そこでキリスト教においては,罪の赦(ゆる)しは終末的な神の自由な恵みであるとともに,キリストの十字架による一回的なできごとであるとし,これを〈贖い〉〈償い〉〈なだめ〉〈赦し〉〈解放〉〈和解〉などのさまざまの語で呼んでいる。英語のatonementは一体となること,reconciliationは交わりの回復を,ドイツ語のVersöhnungはなだめることを意味するが,これらはみな原意を離れ,十字架のできごとに結ばれて比喩化される。…

【内済】より

…もめごとなどを表沙汰にしないで解決すること。とくに江戸時代,和解することをいう。広義には裁判外の示談も内済というが,裁判上の内済は,奉行所の承認手続(済口聞届(すみくちききとどけ))を経ることによって判決(裁許(さいきよ))と同様の効力が与えられる。…

※「和解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android