中世・近世初期に,庶民・郎従などに科した,鬢(頭の左右の側面の髪)の片側をそる剃髪刑。入墨刑などとともに犯罪者を一般の人々と区別し,犯罪予防に役立たせる刑とされているが,本来は,犯罪者を不吉な外貌,いわゆる〈異形(いぎよう)〉にすることを目的とした刑罰であった。中国古代では(こん)刑という剃髪刑がもちいられていたが,日本の律令国家は,例外的にこれをもちいたほかは刑を継承しなかった。片鬢剃が登場するのは,《御成敗式目》の刑罰としてであり,〈辻女捕(つじめとり)〉を犯した郎従以下のものにこの刑が科せられた。この刑がどのような法源より式目に登場するのか不明であるが,江戸時代初頭の秋田藩の鉱山人夫に対する刑として,そった頭に墨や朱をぬる多様な形態の片鬢剃刑がひろく採用されており,この刑罰が,中世東国の武家社会の基層部に慣習的刑罰の一形態として存在したことが想定されるのである。
執筆者:勝俣 鎮夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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