内科学 第10版 「特発性炎症性筋疾患」の解説
特発性炎症性筋疾患(炎症性ミオパチー)
a.特発性多発性筋炎(idiopathic polymyositis:PM) 【⇨10-6】
b.特発性皮膚筋炎(idiopathic dermatomyositis:DM)【⇨10-6】
c.封入体筋炎(inclusion body myositis:IBM)(Dimachkieら,2012)
封入体筋炎という名称は筋線維に空胞が形成されることに由来する.50歳以上の発病が大半で,若年発症はまれであり,男性が女性に比べ2倍以上と頻度が高い.
病理
筋線維に空胞が形成,この空胞がトリクローム染色にて赤紫色の顆粒として染色される.また,封入体筋炎では,電子顕微鏡で15~20 nmの径の微小管構造の存在が核や細胞質にとらえられる.筋細胞間に単核細胞が浸潤しており,CD8+T細胞の割合が著しく増加していることから細胞傷害性T細胞による直接の筋細胞の傷害が病態形成にかかわっているが,封入体部分にβ-アミロイド,ユビキチン,リン酸化タウ蛋白,アポリポ蛋白E,プリオン蛋白などAlzheimer病の脳に存在する分子が存在することが報告され,炎症は筋細胞の変性によって起ってきた二次的なものととらえられるようになってきている.初回の筋生検で封入体が確認されず,多発性筋炎と診断されることも多く,症状が進行するため,生検を繰り返して初めて診断できる症例も多い.
症候
封入体筋炎では大腿四頭筋や手の屈筋が障害されやすく,両側対称性で罹患する場合,左右非対称性で起こる場合さまざまである.慢性の経過をとり,遠位筋も障害されやすい.嚥下筋の罹患による嚥下障害の頻度が高い.血清筋原性酵素の上昇は軽度のことが多く,ステロイド治療で一時的に筋原性酵素検査値が低下しても,筋力低下は徐々に進行することが多い.生命予後は悪くないが,筋炎としてはステロイド治療が無効あるいは一時的効果のみのことが多く,慢性的に筋力低下が進行する.
d.肉芽腫性筋炎
頻度はまれ.サルコイドーシスの1症状として起こっているものと,ほかの臓器の肉芽腫を伴わない肉芽腫性筋炎(isolated granulomatous myositis)がある.血清筋原性酵素の上昇を伴わない症例も多い.
e.好酸球性筋炎
頻度はまれ.好酸球の浸潤を伴う筋炎.通常は,好酸球性筋炎は寄生虫感染の症状として出現するが,基礎疾患のない特発性の症例も報告されている.[村川洋子]
■文献
Dimachkie MM, Barohn RJ: Inclusion body myositis. Semin Neurol, 32: 237-245, 2012.
Nagaraju K, Lundberg IE: Inflammatory diseases of muscle and other myopathies. In: Kelley’s Textbook of Rheumatology. 8th ed, pp1353-1380, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報