浸潤(読み)しんじゅん

精選版 日本国語大辞典 「浸潤」の意味・読み・例文・類語

しん‐じゅん【浸潤】

〘名〙
液体が少しずつしみ込んでぬれること。ぬれうるおうこと。
※貴嶺問答(1185‐90頃)二月一日「大忌祭者、広瀬龍田二祭也。令山谷水変成甘水潤苗稼其全稔。故有此祭也」 〔王褒‐洞簫賦〕
思想勢力などが次第に浸透して広がっていくこと。〔慶応再版英和対訳辞書(1867)〕
公議所日誌‐一五中・明治二年(1869)五月「我民の浸潤せし厚薄を見て、或は説諭し、或は厳刑するの等あるべし」
③ 白血球・がん細胞などが組織内に侵入しておかすこと。肺浸潤など。
大道無門(1926)〈里見弴〉微症「右肺の浸潤(シンジュン)は進む一方だった」

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デジタル大辞泉 「浸潤」の意味・読み・例文・類語

しん‐じゅん【浸潤】

[名](スル)
液体がしみ込んでぬれること。「漏水浸潤して壁にしみができる」
水がしみ込むように、思想・勢力・雰囲気などが広がっていくこと。「生活合理化国民浸潤する」
結核菌がん細胞などがからだの組織内で増殖してしだいに広まっていくこと。肺浸潤など。
[類語](1濡れる湿る潤う湿す濡らす潤す濡れそぼつ湿気る潤むじめつくじとつくそぼつそぼ濡れるしょぼたれるしょぼ濡れる潮たれる

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「浸潤」の意味・わかりやすい解説

浸潤
しんじゅん

がん細胞が周囲の組織へ広がっていくこと。

 遺伝子の変異によって増殖能を獲得したがん細胞は異型性を示し、局所で限局的に増殖していく。がん細胞は、局所で増殖しつつ、浸潤能を獲得していく。食道がん子宮頸(けい)がんのような扁平(へんぺい)上皮のがんの場合、いずれはがん細胞が上皮全体を置換する。このように、上皮全体は置換したが、がん細胞がまだ上皮細胞層と結合組織の間の基底膜を越えていない状態が「上皮内がん」であり、がん細胞が基底膜を越え、上皮下の結合組織(間質)に進展することが「浸潤」である。上皮内がんの段階で切除されれば転移のリスクは低いといえる。

 なお、「転移」とは、がん細胞が原発巣(はじめに発生した部位)とは離れた組織や臓器で非連続性の腫瘍(しゅよう)を形成することであり、その経路により、血行性転移、リンパ行性転移、播種(はしゅ)性転移などに分けられる。

 浸潤と転移は一連の過程を成すもので、浸潤したがん細胞は、さらに血管やリンパ管の中に侵入し、遠隔臓器への転移に至る。

[渡邊清高 2017年11月17日]

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普及版 字通 「浸潤」の読み・字形・画数・意味

【浸潤】しんじゆん

しみこみひたす。〔論語、顔淵〕潤の譖(そし)り、膚受の(うつた)へ行はれざる、と謂ふべし。

字通「浸」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「浸潤」の意味・わかりやすい解説

浸潤
しんじゅん
infiltration

本来その組織固有のものでない細胞が,組織の中に出現することをいう。炎症の場合にみられる多形核白血球,リンパ球,組織球などの炎症性細胞浸潤や,悪性腫瘍の細胞が,周囲の組織を破壊してその中に入り込んでいく腫瘍性浸潤などがある。肺浸潤というのは,X線写真上,肺に陰影が現れた状態の総称で本来,肺結核症のことをいう。

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世界大百科事典(旧版)内の浸潤の言及

【癌】より

…癌を完全に定義づけることは難しいが,ひとまず次のようにいうことができる。すなわち,〈癌とは,多細胞生物の体の中に生じた異常な細胞が,生体の調和を無視して無制限に増殖し,他方,近隣の組織に浸潤したり他臓器に転移し,臓器不全やさまざまな病的状態をひき起こし,多くの場合生体が死に至る病気〉である。 癌は多細胞生物の病気であって,細菌やアメーバなど単細胞生物には癌はない。…

※「浸潤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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