田植草紙(読み)たうえぞうし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「田植草紙」の意味・わかりやすい解説

田植草紙
たうえぞうし

中国山地の、とくに大規模な田植を行う囃田(はやしだ)地方を中心として流布した田植唄(うた)の集成。一巻。編者不詳。原本は化政(かせい)期(1804~30)の写本。約140章。田植の進行に伴って朝歌から晩歌に至るまで組織的に配列されており、各章は、オヤウタ・コウタにオロシ三行つく五行詩をなし、各句末は四音止(ど)めとするなど、中世小歌の律調面の特質をみごとに示す。恋の情趣を詠むものが多いのも、収穫を予祝する呪歌(じゅか)としてのはたらきとみられる。囃田は、当日、山から田の神を迎え降ろす神事から始められ、田植という労働と田植唄を歌い、簓(ささら)・大太鼓・笛などで囃す芸能とが、総指揮の任にあたるサンバイサゲにより一体化されるものであり、『田植草紙』はこのような背景のもとに形成されたものといえよう。中世小歌の集成にとどまらず、豊かな民謡集として貴重である。

[徳江元正]

『志田延義校注『日本古典文学大系44 中世近世歌謡集』(1959・岩波書店)』

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