改訂新版 世界大百科事典 「田植草紙」の意味・わかりやすい解説
田植草紙 (たうえぞうし)
歌謡集。1巻。中国山地の田植歌を書き留めた写本。当地方にはこの種の写本がおびただしいが,これは広島県山県郡北広島町の旧大朝町新庄で発見され,1928年に《日本歌謡集成》第5巻に収められ,しだいに日本を代表する田植歌集としての評価を得るにいたった。歌詞には中世小歌の強い影響がみられ,歌謡としての成立は室町末期とするのが通説。ただし写本になったのは江戸時代で,《田植草紙》そのものは文化・文政ころの写しであるという。
1首の歌は音頭と早乙女の掛合を中心にほぼ5行で構成されるが,そうした歌の130首余りを朝・昼・晩の各4番,計12番に分けて配列し,田植の1日に歌うべき歌をもっとも巧みに整序したのが本書である。この場合の田植は囃子田(はやしだ)(花田植,大田植,供養田植)といわれ,儀式性・芸能性を強くもったハレの行事であった。囃子田は民俗芸能として伝承され,安芸,石見の一部では今に《田植草紙》の歌を歌いついでいる。
執筆者:友久 武文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報