化学辞典 第2版 「硝酸式硫酸製造法」の解説
硝酸式硫酸製造法
ショウサンシキリュウサンセイゾウホウ
nitration process for manufacture of sulfuric acid
窒素酸化物を触媒として二酸化硫黄の空気酸化を行う硫酸製造法.均一触媒反応のため触媒は被毒を受けず,ガス精製は簡単でよいが,接触法に比べて精製する硫酸には不純物が混入して着色している.わが国では接触法によることが多く,全硫酸生産量中,硝酸式によるものはわずかである.18世紀末ごろから行われたのは鉛室式で,その後,効率の低い鉛室のかわりにゲイ-リュサック塔およびグロバー塔の数を増した半塔式,および鉛室を全廃した塔のみによる塔式に改良され,現在では塔式が用いられている.反応の原理は,NO2によるSO2の酸化反応,
2SO2 + 2NO2 + 2H2O → 2H2SO4 + 2NO
NOの空気酸化反応,
2NO + O2 → 2NO2
である.後者が前者に比べていちじるしく遅いので,工業的に大容積の鉛室や反応塔を必要とする.反応機構は次のようなものが妥当であるとされている.気相反応,
2NO + O2 → 2NO2,NO + NO2 → N2O3
は,全系の各所で起こる.気液界面反応,
SO2 + H2O → H2SO3,N2O3 + H2O → 2HNO2,
4NO2 + 2H2O → 2HNO3 + 2HNO2
は,いずれもグロバー塔,鉛室または塔で起こる.
2H2SO4 + N2O3 →
2(NO)HSO4(ニトロシル硫酸) + H2O
は,ゲイ-リュサック塔で起こる.液相反応,
H2SO3 + 2HNO2 → H2SO4 + 2NO + H2O,
3H2SO3 + 2HNO3 → 3H2SO4 + 2NO + H2O,
SO5NH + H2O → H2SO4 + HNO2
は,グロバー塔,鉛室で起こる.ばい焼炉からのガスはコットレル集じん機を通り,鉛室式ではグロバー塔→第一~第三鉛室→第一,第二ゲイ-リュサック塔を経て硫酸となるが,第三鉛室で40°Bé(ボーメ度)硫酸である.塔式では除じんガスは3基のグロバー塔と3基のゲイ-リュサック塔を交互に通り,最終的に70% H2SO4となる.効率は20~25 kg H2SO4 m-3 d-1 で,鉛室法の3~5倍高率である.ベターゼン法は原料SO2濃度の変動のはげしい精錬廃ガス処理を目的とした塔式,カワカロフ式は塔式をさらに改良したもので,N2O3濃度,反応速度,効率を高め,硝酸製造も同時に行える方式である.[別用語参照]接触式硫酸製造法
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報