精選版 日本国語大辞典 「硫酸」の意味・読み・例文・類語
りゅう‐さん リウ‥【硫酸】
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化学式H2SO4、式量98.1。組成H2SO4の純物質あるいはその水溶液をいうが、普通は水溶液をさすことが多い。工業上もっとも重要な強酸の一つ。通常、水溶液濃度が90%以上のものを濃硫酸といい、90%未満の濃度のものを希硫酸といっている。現在、日本で生産されている硫酸はほとんどが接触法(後述)によって合成されたもので、原料とする二酸化硫黄の不純物を十分に除去してから(触媒の保護のため)触媒上で空気酸化を行う。そのため得られるものはきわめて純度が高いものであり、市販品は濃度96%、密度1.84g/cm3、18mol/dm3のものが普通である。濃硫酸にさらに三酸化硫黄(いおう)を溶かしたものが発煙硫酸である。
[守永健一・中原勝儼]
硫黄やミョウバンは古くから知られていたから、硫酸もなんらかの形で用いられたかもしれないが、その製法が歴史に初めて登場したのは8世紀ごろで、アラビア人ゲーベル(ジャービル・ビン・ハイヤーン)がミョウバンを乾留してつくったと伝えられている。15世紀ごろ硫黄を硝石とともに燃やして三酸化硫黄が得られることがわかり、18世紀にはイギリスで、ガラス器を用いてこの混合物を燃焼、器内で硫酸を製造する工場がつくられた。その後、ガラスのかわりに鉛室が用いられ、硫黄の燃焼炉が鉛室から分離された。19世紀になると改良が進み、硫黄のかわりに安価な硫化鉄鉱が用いられるようになり、ゲイ・リュサック塔で窒素酸化物が回収され(1827)、グラバー塔で回収含硝硫酸(酸化窒素を含む硫酸)の脱硝が行われるようになり(1859)、鉛室式硫酸製造法の基本ができあがった。さらに、鉛室を用いない、いわゆる塔式製造法へと発展し(1909)、硝酸式製造法が完成した。しかし、これらの方法は現在では接触式にとってかわられており、行われていない。1831年、白金石綿を触媒として二酸化硫黄と酸素から三酸化硫黄を生成することがみつけられたが、不純物により白金の触媒能が失われやすいため工業化は遅れた。その後、精製した二酸化硫黄を用いてイギリスで工業化に成功し(1881)、染料工業の発展とともに20世紀の初めごろ大規模な工業化が進んだ。1924年バナジウム触媒が発明され、白金に比べて安価、毒作用を受けにくい利点のため急速に発達し、現在ではバナジウム触媒を用いる接触式硫酸製造法が主流となっており、硝酸式製造法はすべて行われなくなっている。日本では1872年(明治5)金銀地金の製錬に必要なため大阪造幣寮で鉛室式が採用され、接触式は1905年(明治38)平塚火薬製造所で初めて用いられた。
[守永健一・中原勝儼]
三酸化硫黄を水に溶かすと硫酸が得られる。三酸化硫黄の製造は、実験室的には硫酸鉄(Ⅲ)水和物、発煙硫酸、二硫酸ナトリウムなどを加熱分解する方法が用いられる。
工業的硫酸製造法は、硫黄、硫化鉱などを燃焼させて二酸化硫黄を発生させ、一種の触媒として酸化窒素の気体を混ぜ、酸化反応をおこして硫酸を得る硝酸式製造法と、十分に精製・乾燥した二酸化硫黄を400℃以上に加熱して、酸化バナジウム(Ⅴ)などの触媒による接触酸化を行って得た三酸化硫黄から硫酸をつくる接触式製造法とに大別される。いずれの方法においても二酸化硫黄の製造までは共通である。
二酸化硫黄の発生には、焙焼(ばいしょう)炉を用いて硫黄、硫化鉄鉱を過剰の空気中で焙焼する。焙焼炉には硫黄炉、流動焙焼炉など、いろいろな形式がある。また、製錬廃ガス(銅、亜鉛、鉛などの製錬に際して発生する鉱石の焙焼炉ガス)も、二酸化硫黄の濃度は比較的低いが量が多く煙害問題をおこすので、その利用法が研究され、硫酸製造の原料として使われている。焙焼炉から出るガス中には、鉱塵(こうじん)やヒ素、セレンなどの含有量の高い鉱石ではこれらの酸化物が昇華して混入するおそれがある。とくに接触式では原料ガスの精製が必要であり、冷却、洗浄、電気集塵装置などを用いて精製が行われる。接触式硫酸製造工程については
を参照されたい。[守永健一・中原勝儼]
以前は、グラバー塔とゲイ・リュサック塔の間に数個の鉛室を配置した鉛室式が行われたが、現在では鉛室を用いない塔式製造法のペターゼン塔式がわずかに操業されているだけである。生成した硫酸水素ニトロシルが加水分解されて、亜硝酸と硫酸を生成する。実際の反応では、二酸化硫黄の酸化反応の大部分は硫酸水素ニトロシル中で進むものと考えられている。硝酸式硫酸製造の反応については
を参照されたい。得られる硫酸は濃度が低い(80%以下)ため、肥料の製造用などに使われる。接触式硫酸製造法は、硝酸式に比べて純度や濃度が高く、精製硫酸や発煙硫酸の製造に適している。焙焼炉ガス中に含まれる不純物は、触媒の効果を弱め寿命を短くするので、とくにガスの精製に重点を置き、除塵したガスを冷却して希硫酸で洗浄し、濃硫酸で乾燥したのち転化器に導き、酸化バナジウム(Ⅴ)(V2O5-K2SO4-SiO2系)触媒により酸化反応をおこさせる。二酸化硫黄はほとんど完全に三酸化硫黄に酸化される。
2SO2+O2―→2SO3
三酸化硫黄を直接に水に吸収させると、水蒸気に触れて硫酸の霧を生じ、三酸化硫黄の回収が困難となる。硫酸は濃度98.3%で蒸気圧が最低となるので、三酸化硫黄を98%硫酸に吸収させて発煙硫酸や100%硫酸をつくり、これをガス吸収塔からの希硫酸や水で濃度を調節し、一部を製品とし、一部は循環させて三酸化硫黄の吸収用に用いる。
[守永健一・中原勝儼]
純硫酸は無色、粘性のある油状液体である。少量の水が加わると比重はかえって増加するが、多量の水が加わるとしだいに減少する(硫酸の比重変化については
を参照されたい)。多くの無機・有機物を溶かし、熱すれば290℃で分解し始め、三酸化硫黄SO3を発生する。98.3%硫酸は共沸混合物で最高沸点338℃を示す。濃硫酸を水と混ぜると多量の熱を発生する。発生熱は硫酸の濃度が増すにつれて大きくなり、1キログラム当りの発熱量は61.25%のとき39キロカロリー、純硫酸では193キロカロリー、100%三酸化硫黄で486キロカロリーである。水との間に一水和物(無色、融点8.6℃、沸点290℃)や二水和物(無色、融点-39℃、沸点167℃)などの水和物をつくる。硫酸の状態図(融点)については を参照されたい。硫酸は水と激しく結合するだけでなく、種々の化合物中の水素原子と酸素原子をH2Oの割合で奪う、いわゆる脱水作用がある。多くの有機物はこの作用により炭素を遊離する。たとえば、砂糖などの炭水化物に濃硫酸を注ぐと激しく発熱して分解し、炭素のみを残す。また、吸湿性が強いので、デシケーターに入れて乾燥剤として用いられる。硫酸は二塩基酸で、水溶液は二段階に電離して強酸性を示す。
H2SO4H++HSO4-
HSO4-H++SO42-
希薄溶液で第一段の電離は完全に進行するが、第二段の電離定数は0.02(18℃)である。電離度は1規定で51%、0.1規定で59%であり、酸としては塩酸、硝酸よりやや弱い。希硫酸は亜鉛、鉄などと反応して水素を発生するが、銅、銀などとは反応しない。濃硫酸は酸化作用があり、とくに熱濃硫酸は希硫酸に溶けない金属(金、白金以外)のほか、炭素、硫黄を酸化する。濃硫酸や発煙硫酸は有機物と反応してスルホン酸をつくり、濃硝酸との混合物(混酸)は有機化合物のニトロ化に使われる。鉄と鉛に対する作用は特異的である。鉄は濃硫酸により不溶性の皮膜をつくって内部が保護される(不動態)ので、輸送用タンクに用いられる。一方、鉛は希硫酸(75%以下)に不溶だが濃硫酸に溶け、とくに温度が高いほどその傾向が強い。硫酸塩には正塩M2SO4と酸性塩M
HSO4がある。硫酸塩の多くは水に溶けるが、アルカリ土類金属の硫酸塩や鉛塩などは難溶性である。
[守永健一・中原勝儼]
硫酸の消費量は、従来一国の化学工業水準のバロメーターといわれるほどで、その用途は広く、硫酸に関係のない製品はないといってもいいすぎではない。日本では2013年に100%換算で約638万トン製造されている。また、硫酸の国内需要は肥料16%、繊維11%、無機薬品27%、その他46%となっている(2013)。
その用途は次のように分類される。
(1)硫酸を直接の原料として用い、製品中に硫酸分を含むもの 硫酸アンモニウム、過リン酸石灰、ナトリウムやカリウムなどの金属の硫酸塩、ミョウバン、硫酸ジメチル。
(2)硫酸の化学反応性を利用するが、製品中に硫酸分を含まないもの 湿式リン酸、塩酸、酢酸、銅などの金属製錬、フェノール、ナイロンやビニロンなどの合成繊維、各種の染料および中間物。
(3)酸化助剤用 アルデヒド、キノン、有機硫化物など。
(4)還元助剤用 水素の発生。
(5)ニトロ化助剤用 ニトロベンゼン、ニトロセルロース、TNTその他の火薬。
(6)脱水性の利用 アルコールからのエーテル製造、ガス乾燥。
(7)酸性の応用 ハロゲンなどの製造。
(8)侵食性の応用 鉄・黄銅・青銅・銀のさび落とし。
(9)触媒 酢酸エステルなど各種エステルの製造。
(10)精製または洗浄用 石油精製、油脂の洗浄。
(11)その他 蓄電池用、殺菌剤、殺虫剤、防腐剤、化学分析試薬。
濃硫酸は強い脱水作用および腐食作用があるので、皮膚や衣類に付着しないよう注意する。付着したときは大量の水または希アンモニア水で洗う。希硫酸でも衣類に付着したものを放置しておくとぼろぼろになる。蒸気としての人体に対する許容濃度は1mg/m3。
[守永健一・中原勝儼]
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H2SO4(98.08).水溶液濃度が90% 以上のものを濃硫酸といい,それ以下の濃度のものを希硫酸という.二酸化硫黄から無水硫酸をつくり,水と反応させて濃硫酸をつくる.市販の濃硫酸は,通常96% 水溶液で,密度1.84 g cm-3,17.95 mol L-1 である.純硫酸は粘ちゅうな液体.融点10.5 ℃.密度1.834 g cm-3.ほとんどの金属を溶かす.水には多量の熱を発して溶け,自由に混和する.水溶液では強酸となるが,二塩基酸としての第二電離定数Ka2 は2×10-2 で,比較的小さい値を示す.濃硫酸は脱水作用があり,熱すると強い酸化作用を示す.有機化合物と脱水,酸化,スルホン化などの反応を行う.工業的に大規模に生産され,有機反応助剤,硫安,リン酸肥料,薬品,化学繊維,金属精錬,紙・パルプなどの製造に用いられている.腐食性で皮膚,粘膜をおかす.有毒.[CAS 7664-93-9][別用語参照]硝酸式硫酸製造法,接触式硫酸製造法
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[第1期 酸・アルカリ工業の成立]
1760年代に始まるイギリスの産業革命によって繊維工業が急成長したため,18世紀後半には漂白工程の能率向上と漂白剤の安定入手が求められた。繊維の漂白は,それまで,海藻や木炭などの灰汁に浸し,天日にさらし,それから酸敗ミルクで中和するという方法であったが,この時代にはソーダと硫酸が使われるようになった。硫酸は,1749年にイギリスのJ.ローバックが硫黄を原料として鉛室を用いる方法(鉛室法)で大量につくることに成功し,また91年にはフランスのN.ルブランがルブラン法によるソーダの工業化に成功した(ソーダ工業)。…
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