移行経済(読み)いこうけいざい

百科事典マイペディア 「移行経済」の意味・わかりやすい解説

移行経済【いこうけいざい】

中央集権的計画経済から自由主義市場経済への移行をめざす旧社会主義国の経済。ロシアをはじめとする旧ソ連諸国,チェコハンガリーなどの東欧諸国,中国やベトナムなどのアジア諸国が〈移行経済〉といわれる。原則的には企業や労働者といった経済主体の自由尊重であり,具体的には自由競争の秩序維持である。経済活動の主役である企業の公有から民営化(私有制)に代表される所有権の確立,それに伴う債権債務(経済的権利義務)の確立,取引価格が支配する市場規模の確立などが課題となる。そのためには法律や制度の整備が必要で,特に財政・金融や税制,会計制度などの改革や市場参加者の自己責任に対応するディスクロージャー進展が重要である。 1980年代に,すでに移行準備期間を持ったポーランド,チェコ,ハンガリーではこうした政策が比較的効果を示したが,IMF国際通貨基金)の指導に従ってこの方法をとったロシアは必ずしも順調ではない。社会主義体制を保ったまま漸進的に市場経済への移行をめざしているアジア諸国が全般的に順調なところから,改革を徐々に行うアジア型の移行経済が注目されている。

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知恵蔵 「移行経済」の解説

移行経済

1980年代末から社会主義政権が崩壊した結果、市場経済を導入した東欧やロシアの状態を指す。しかし、広い意味では、社会主義的政権を維持しながら、漸進的に市場経済化を目指す、東アジアの中国やベトナムも含まれる。国有企業は民間企業に比べて非効率なので、一挙に市場の圧力にさらされると存立基盤を失う。ロシアでは国有企業を一掃すると雇用問題が激化するので、政府は救済支出を拡大、その結果、財政赤字や通貨増発が止まらずインフレが激化した。一方、中国は70年代末から「社会主義的市場経済」を目標とし、ベトナムはドイ・モイ(刷新)政策を86年から始めた。ASEAN諸国が外資導入をてこにして輸出工業化に成功したことに刺激されて、べトナムもその条件整備に着手した。2000年には証券取引所を開設し、集権的管理体制を後退させ国営企業の民営化、個人経営を奨励している。中国はWTO加盟をきっかけに経済改革の加速を目指し、ロシアも同じ方向を追求している。ただし中国の路線では、市場経済と社会主義政権の維持がいつまで両立するか、という疑問も残る。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

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