ディスクロージャー(読み)でぃすくろーじゃー(英語表記)disclosure

翻訳|disclosure

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディスクロージャー」の意味・わかりやすい解説

ディスクロージャー
でぃすくろーじゃー
disclosure

企業、政府、地方自治体などが、自ら保有している情報を開示すること。情報開示ともいう。なお、この項目では企業のディスクロージャーについて解説する。

[武田典浩 2020年7月21日]

企業のディスクロージャー

投資家が投資判断をする際には、投資対象となる会社の事業内容や財務状況に関する情報が必要であるが、個々の投資家による情報収集はむずかしいため、法律等により強制的に情報開示を行わせる必要がある。また、会社は「良いニュース」は積極的に開示するが、「悪いニュース」は開示したがらないため、「悪いニュース」を開示させるために強制的な情報開示が必要であるとの議論も存在する。

 なお、企業が株主や投資者に対して行うディスクロージャーについては、金融商品取引法、会社法、金融商品取引所の規則に根拠となる規定がある。

[武田典浩 2020年7月21日]

金融商品取引法上のディスクロージャー

金融商品取引法上のディスクロージャーは、現在の投資者のみならず、将来投資者となるかもしれない者に対する情報提供をもその目的としている。同法は、有価証券発行会社が開示するものと、それ以外の者が開示するものとに分けることができる。

[武田典浩 2020年7月21日]

有価証券発行会社が開示するもの

金融商品取引法は、会社が有価証券を発行して資金調達を行う場である発行市場(発行開示)と、その有価証券が投資者の間で流通する場である流通市場(継続開示)に分けて、開示ルールを規定している。発行開示では、新たに発行する有価証券を多数の一般投資者向けに勧誘する「募集」、あるいは、すでに発行された有価証券を多数の一般投資者向けに勧誘する「売出し」に該当する場合には、有価証券発行者は、「証券情報」や「企業情報」などを含む「有価証券届出書」を内閣総理大臣に提出し(金融商品取引法5条1項)、同「届出書」とほぼ同じ内容の「目論見書(もくろみしょ)」を作成して投資者等に提供しなければならない(同法13条1項、15条2項)。継続開示では、有価証券発行者は、事業年度終了後3か月以内に「企業情報」などを記載した「有価証券報告書」の提出義務を負う(同法24条)。また、同「報告書」は1年に1度の情報開示であるため、情報がどうしても古くなってしまうことを踏まえ、上場会社では、3か月ごとに「四半期報告書」(同法24条の4の7第2項)あるいは半年ごとに「半期報告書」(同法24条の5第1項)を提出しなければならない。

 金融商品取引所は、発行会社に関する重要情報が生じた場合には、上場規則により遅滞なく公表することを求めており、これを適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)という。このうち、とりわけ決算情報に関する適時開示は決算短信、四半期決算短信などとよばれている。

 ディスクロージャーは一部の者に偏って情報提供をすることも許されず、公平・公正なものでなければならない。2017年(平成29)金融商品取引法改正により導入された、情報の選択的開示禁止の規制(フェア・ディスクロージャー・ルールfair disclosure rule。FDルールともいう)は、有価証券の発行者が未公表の決算情報などの重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、当該発行者に対して、意図的な伝達の場合には同時に、意図的でない伝達の場合には速やかに、当該情報を公表する義務を課すものである(同法27条の36第1項)。

[武田典浩 2020年7月21日]

有価証券発行会社以外の者が開示するもの

会社の大量の株式がある者の手中に収まり、その者に会社の支配権が移転すると、会社の経営方針が変化したり、場合によってはその者によって会社が他の会社へ身売りされたりするなど、会社ひいてはその株主たちの運命に重大な影響を及ぼす。そのため、金融商品取引法は、会社の支配権が変動する局面において、その支配権を得ようとしている者に対し、一定の開示をするように要求している。

 投資家は、ある会社について株券等保有割合が5%を超えた日から5営業日以内に、内閣総理大臣に「大量保有報告書」を提出しなければならない(同法27条の23第1項)。5%ルールともよばれている。また、投資家が、取引所市場外において株式等を取得し、会社の支配権を手に入れようとしている場合には、日刊新聞等において「公開買付開始公告」を行い(同法27条の3第1項)、内閣総理大臣に対し「公開買付届出書」を提出し(同法27条の3第2項)、買付対象となる株主のために「公開買付説明書」を作成(同法27条の9第1項)しなければならない。この一連手続は公開買付tender offer bidとよばれている。

[武田典浩 2020年7月21日]

会社法上のディスクロージャー

会社法における情報開示は、金融商品取引法のそれとは異なり、むしろすでに会社の株主や債権者になっているものに対する情報提供をその目的としている。たとえば、以下のような制度が存在する。

(1)取締役会設置会社では、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、取締役会の承認を受けた計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)・事業報告と、監査報告・会計監査報告を株主に提供し(会社法437条)、会社はこれら書類を定時株主総会の日の2週間前(非取締役会設置会社では1週間前)から一定期間、会社の本・支店に備え置かなければならない(同法442条1項2項)。

(2)会社が株主総会における書面投票制を導入している場合には、株主総会の招集通知に際して、株主に対し株主総会参考書類として計算書類を交付する(同法301条1項。2019年会社法改正により、ウェブでの提供もできるようになった)。

[武田典浩 2020年7月21日]『黒沼悦郎著『金融商品取引法』(2016・有斐閣)』『福原紀彦著『企業法要綱3 企業組織法――会社法等』(2017・文眞堂)』『山下友信・神田秀樹編『金融商品取引法概説』第2版(2017・有斐閣)』『伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征著『会社法』第4版(2018・有斐閣)』『桜井久勝・須田一幸著『財務会計・入門』第13版(2020・有斐閣)』『黒沼悦郎著『金融商品取引法入門』第7版(日経文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディスクロージャー」の意味・わかりやすい解説

ディスクロージャー
disclosure

企業が株主,債権者その他の利害関係者に対して,会計情報を中心に各種の企業情報を公開することをいい,企業内容開示とも呼ばれる。日本のディスクロージャー制度は,(1) 証券取引法に基づくもの,(2) 商法に基づくもの,(3) 証券取引所の要請によるものの3つからなる。証券取引法の制度は,企業が大量の証券発行により資金調達を行なう前に有価証券届出書などを通じて企業情報を公開させる制度と,証券発行後に流通を促進するため上場企業などに対して有価証券報告書,半期報告書などを通じて企業情報を定期的に公開させる制度に分けられる。他方,商法は大会社に対して株主総会の召集通知に計算書類を添付するとともに,本店などでの計算書類の閲覧を許容すること,および株主総会後に遅滞なく貸借対照表と損益計算書を新聞で公告することを要求している。また証券取引所の要請にこたえて,企業は取締役会での決算案承認後,きわめて早期に取引所の記者クラブで決算発表を行なっている。これらの制度に基づくディスクロージャーの促進は,企業が利害関係者との良好な関係を維持しつつ成長をはかるためにも,ますます重要になりつつある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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