日本大百科全書(ニッポニカ) 「結晶世界」の意味・わかりやすい解説
結晶世界
けっしょうせかい
The Crystal World
イギリスのSF作家J・G・バラードの地球終末テーマのSF(1966)。はるか遠隔のどこかの島宇宙で反物質の銀河系が他の銀河系と衝突し、その結果、宇宙全体で時間が消え始め、その影響は徐々に太陽系にまで及んできた。アフリカやマイアミなどでは人や物が宝石化したように結晶し、きらきらと妖(あや)しい光を放つようになる。結晶化することによって物質は永遠の時間の中に閉じ込められるのである。こうした異常事態、外宇宙に発生した大変動に対応する人間の内宇宙のアイデンティティがさまざまな登場人物を通して鋭く剔抉(てっけつ)される。1960年代イギリスのニュー・ウェーブ運動を代表する作品。
[厚木 淳]
『中村保男訳『結晶世界』(創元推理文庫)』