胃軸捻転症(読み)いじくねんてんしょう(その他表記)Gastric volvulus

六訂版 家庭医学大全科 「胃軸捻転症」の解説

胃軸捻転症
いじくねんてんしょう
Gastric volvulus
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 胃軸捻転症は、胃の異常な回転や捻転によって起こる比較的まれな病気です。新生児乳児に多く発症します。回転する軸によって、臓器軸性捻転(ぞうきじくせいねんてん)(長軸捻転:胃の噴門(ふんもん)幽門(ゆうもん)を結ぶ線を軸にして回転)と腸間膜軸性捻転(ちょうかんまくじくせいねんてん)(短軸捻転:胃の小弯(しょうわん)大弯(だいわん)を結ぶ線を軸にして回転)に分類されますが、混合型も報告されています(図19)。日本では短軸捻転が多くみられます。

原因は何か

 胃は靭帯(じんたい)腸間膜(ちょうかんまく)腹膜(ふくまく)などによって固定されていますが、新生児や乳児ではこれらの靭帯の固定が比較的弱いために容易に捻転を生じます。胃の変位を来す原因になる横隔膜(おうかくまく)ヘルニア横隔膜弛緩症(しかんしょう)食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア遊走脾(ゆうそうひ)脾臓が正常な位置にないこと)、無脾症(むひしょう)などを合併しやすいことが知られています。

症状の現れ方

 症状は、急性あるいは慢性の経過をたどりますが、捻転の種類や閉塞の程度によって違います。急性の場合には嘔吐、激しい腹痛、上腹部膨満(ぼうまん)感を来します。ボルヒアルトの3徴(吐物のない嘔吐、上腹部痛、胃管挿入困難)が有名です。急速に生じた捻転の程度が180度を超えた場合には完全閉塞となって循環障害を起こし、胃壁壊死(えし)穿孔(せんこう)(あな)があく)を合併してショック状態となることがあります。そのため、急性型では慢性型に比べて死亡率が高くなります。

 小児では急性型はまれで慢性型が多く、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹部の膨満などの症状がみられますが、無症状の場合もあります。また、食道裂孔ヘルニアに合併した場合には腹部の症状に乏しく、胸部痛、呼吸困難などの胸部の症状が主体になります。

検査と診断

 胸部・腹部の単純X線検査、胃のX線造影検査や腹部CTなどの検査を行って、胃の(ねじ)れの有無や程度を診断します。

治療の方法

 慢性型の場合は、横隔膜や胃自体に異常がなければ、多くは体位の工夫、食事を少量ずつ回数を多く摂取する、浣腸による排便・排ガスの促進などの保存療法によって軽快します。

 急性型で完全閉塞を起こした場合は、循環障害によって胃壁の壊死を生じる危険性があるので、胃管挿入などで軽快しない場合には緊急に開腹手術を行う必要があります。手術療法は、捻転を整復したのちに原因疾患の治療と、胃を腹壁や横隔膜に固定する胃固定術を行います。胃が壊死している場合には胃切除が必要な場合があります。また、最近では腹腔鏡による治療も試みられています。

病気に気づいたらどうする

 痛みや嘔吐が激しい場合は、すぐに病院に行ってください。子どもは小児科を、大人は内科もしくは外科を受診してください。

 日常生活では食事の過剰摂取を避け、排便習慣をきちんと整えるよう工夫しましょう。

千葉 勉, 伊藤 俊之


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「胃軸捻転症」の解説

胃軸捻転症(先天性胃・十二指腸疾患)

(4)胃軸捻転症(volvulus of the stomach)
病因
 胃の一部または全部が捻転するもので,その回転軸により長軸性(臓器軸性)と短軸性(腸間膜軸性)に分類される.180度以上の捻転で通過障害をきたしたものを胃軸捻転症と総称する.先天的なものでは胃固定靱帯の未熟性もしくは固定不全が捻転を惹起するといわれる.横隔膜疾患や遊走脾に合併することが少なくない.
診断
 上部消化管造影により診断され,短軸捻転では胃底部が幽門部よりも低い逆α像を呈する.長軸型では胃底部の低下はないが,大弯側が小弯側よりも高い,いわゆるupside-down stomachを呈する.腹部CT検査でも診断が可能である.
臨床症状・治療
 症状的には急性型と慢性型に分けられる.
1)急性型:
各年齢にみられるがまれである.突発的な腹痛で発症する.高位イレウス症状で,Borchaedtの3徴,①急激に起こる腹痛と上腹部膨隆,②吐物のない嘔吐発作,③胃管の胃内への挿入困難,を呈する.緊急手術の適応となる.開腹手術による捻転の解除と,胃前壁固定術などを行う.最近では内視鏡下に捻転を整復した後,腹腔鏡下に胃壁固定を行うことも試みられている.
2)慢性型:
新生児や乳児に多くみられる.繰り返す嘔吐,上腹部膨満,慢性の上腹部痛が症状となる.腹臥位上体挙上や胃管による減圧など保存的に加療することが可能で,成長に伴い軽快・治癒することが多い.[前田貢作]
■文献
Kimura K et al: Diamond-shaped anastomosis for duodenal atresia: an experience with 44 patients over 15 years. J Pediatr Surg, 21: 1133-1136, 1986.
日本小児外科学会学術・先進医療検討委員会:我が国の新生児外科の現況—2008年新生児外科全国集計—.日小外会誌,46: 101-114, 2010.
Tan KC, Bianchi A: Circumumbilical incision for pyloromyotomy. Br J Surg, 73: 399, 1986.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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