精選版 日本国語大辞典 「腹痛」の意味・読み・例文・類語
ふく‐つう【腹痛】
はら‐いた【腹痛】
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腹部に発する痛みで、腹部の病変の存在を告げるきわめて一般的な症状であるが、ときには腹部以外の胸部や脊髄(せきずい)などの病変によっておこることもある。通常、腹痛は内臓痛と体性痛が基本となっており、これに関連痛(放散痛)が加わる。内臓痛とは内臓器官そのものからおこるもので、漠然とした痛みであり、部位感は明確でない。原因としては管腔(かんくう)性器官(胃、腸、胆道、尿管、膀胱(ぼうこう)など)の伸展、けいれん、拡張などがあげられる。体性痛とは壁側腹膜、腸間膜、横隔膜の辺縁部からおこる鋭い限局性の痛みで、原因としては壁側腹膜などに対する機械的・化学的刺激があげられる。また関連痛には、内臓皮膚反射や腹膜皮膚反射などがあり、内臓痛の放散で、肩から背部など一定の皮膚領域に知覚過敏や痛覚過敏のみられるものであり、痛みの激しいことを示す。腹部以外の疾患による腹痛も、関連痛の一つとみられる。
腹痛の治療には、まず原因疾患の診断がもっとも重要である。そのためには腹痛の部位や性状、随伴症状を調べる必要がある。部位では自発痛と圧痛との関係を調べ、性状については仙痛と持続痛に分けて調べる。仙痛は内臓痛が強くなって関連痛が加わった状態で、管腔性器官の平滑筋がけいれんしておこり、間欠的に消長する場合が多い。持続痛はおもに実質器官(肝臓や膵(すい)臓など)にみられる痛みで、激しいものは体性痛に属し、管腔性器官の穿通(せんつう)や穿孔にもみられる。また、随伴症状としては悪心(おしん)や嘔吐(おうと)のほか、下痢、便秘、食欲不振、吐血、黄疸(おうだん)、排尿障害などがある。以下、部位別に述べる。(1)心窩(しんか)部痛 いわゆる上腹部痛で、消化性潰瘍(かいよう)(胃・十二指腸潰瘍)をはじめ、虫垂炎の初期、胆嚢(たんのう)疾患、膵疾患のほか、胃炎や胃下垂症などでもみられる。炎症が壁側腹膜に達したり癒着や穿通がみられると、関連痛や体性痛が加わるとともに、痛みの局在部位が移動してくる。(2)右季肋(きろく)部痛 いわゆる右上腹部痛で、肝・胆嚢・胆管疾患が主体をなし、放散痛を伴う胆石症をはじめ、軽度の鈍痛ないし圧迫感を訴える肝癌(がん)、肝炎、肝硬変、肝膿瘍(のうよう)などが含まれる。(3)左季肋部痛 いわゆる左上腹部痛で、一般に機能異常による場合が多く、空気嚥下(えんげ)症、食道裂孔ヘルニア、結腸脾彎曲(ひわんきょく)部のガス貯留などに起因するほか、膵体や膵尾、脾臓、横行結腸や結腸脾彎曲部の病変でもみられる。また、肩や上腕へ放散する関連痛を伴う場合は、心疾患や胸部疾患によることがある。(4)臍(さい)部痛 いわゆる臍(へそ)の周囲の痛みで、腸炎や回虫症など小腸の機能的・器質的疾患のほか、虫垂炎の初期にもみられる。(5)中央下腹部痛 横行結腸の一部および下行結腸の内圧亢進(こうしん)によっておこるが、骨盤内臓器疾患、性器疾患、膀胱・尿路疾患でもみられる。(6)右下腹部痛 いわゆる回盲部痛で、虫垂および回腸末端・盲腸疾患が主体となるが、右腎(じん)疾患や骨盤内の炎症、あるいは腹部神経痛による場合もある。急性虫垂炎が代表的で、ほかに潰瘍性大腸炎、女性性器疾患(卵管炎、子宮内膜炎、卵巣出血など)があり、女性性器疾患では左下腹部や中央下腹部にも痛みを訴える。(7)左下腹部痛 直腸やS状結腸の器質的疾患をはじめ、過敏性大腸症候群や左尿路系疾患、女性性器疾患などでもみられる。(8)全腹部痛 腹部全体が痛むもので、重篤な疾患によるものがあるので注意する。すなわち、急激な腹痛を主訴とし、開腹術を必要とするかどうかを速やかに決定しなければならない疾患群を総称して急性腹症という。
また、腹痛と食事との関係をみると、十二指腸潰瘍や幽門部付近の胃潰瘍では一般に空腹時におこり、食事をとったりアルカリ剤の投与で寛解する。食後ただちに痛む場合は胆嚢疾患や胃・十二指腸の機能異常の場合が多く、胆道仙痛は食後3~5時間でおこることが多い。
なお、小児の腹痛は成人と異なり、〔1〕腹部以外の疾患でおこることが多い、〔2〕急性腹症あるいは重篤な疾患の前駆症状としてみられるものが多い、〔3〕機能的ないし心因性の腹痛が多い、〔4〕乳児では他覚的症状から診断しなければならない、などの特徴がある。
[細田四郎]
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
…急性膵炎による痛みは,ときに最も激しいもので,胆石,長年のアルコールの過飲などが誘因となることがある。一方,胃痙攣の中には実際に胃の強い痙攣性収縮によって痛みが起こるものがあり,鉛中毒(鉛疝痛)やニコチン中毒等の腹痛がそれに当たる。原因のいかんを問わず鎮痛には抗コリン剤が用いられるが,より強い痛みにはモルヒネなどの麻薬も必要となる。…
…もともとは学問的に厳密に定義された内容をもつものではなく,アメリカの外科医たちが,急性の腹部疾患で突然の急激な腹痛をもってはじまり,とにかく早急に手術的処置が必要な場合に用いてきた医学用語である。したがって,手術台上で開腹した後に診断が明らかになる場合もあった。…
※「腹痛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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