内科学 第10版 「腸回転異常症」の解説
腸回転異常症(先天性腸疾患)
概念
胎生期に中腸が回転しながら腹腔内に戻る過程で起きる異常で,通過障害や腸管壊死の原因となる先天性疾患.
病態
胎生10週までに腹腔に腸管が還納される際には,腸管が反時計方向に回転しつつ戻るが,この回転が起こらないか,不完全な状態で戻ると,後腹膜への腸管の固定が起こらず,腸管全体が上腸間膜動脈を基部とする狭小な腸間膜により容易に捻転が起こる状態をいう.捻転は出生後に生じることが多く,通過障害とともに循環障害を併発し,十二指腸以下横行結腸までの腸管が壊死に陥ることがある(図8-5-5,8-5-6).
臨床症状
突然出現する胆汁性嘔吐と下血.70%程度の症例が新生児期に発症する.腸管の阻血が進行するとショックに陥る.
診断
注腸造影により造影剤が横行結腸以上に進まないのは中腸軸捻転のサインである.通過障害や捻転がない場合でも,上部消化管造影を行うとTreitz靱帯による十二指腸から空腸に至る走行がみられない.また,十二指腸下降脚が水平脚を形成せず,そのまま下降する形となる.下降脚が線維性の構造物(Ladd靱帯)によりその前面で締めつけられる状態が生じることがある.本症では上腸間膜動脈の位置が捻転に伴い変化したり,途絶している所見が画像上みられることがあり,超音波診断が有用なことがある.
治療
中腸軸捻転を疑う場合にはショック対応と並行して緊急に手術(Ladd手術)が行われる.軸捻転(通常時計回りに捻転していることが多い)を解除しLadd靱帯を切離,上腸間膜動脈の周囲の腸間膜をできるだけ開き,十二指腸以下の小腸を順次その走行にそって右腹腔に納め,結腸を左側に収める形とする.
大量腸管切除と腸管不全
中腸軸捻転により生じた腸管壊死のために大量腸管切除を余儀なくされる場合には,高カロリー輸液による管理が必須であるが,短小腸に対する外科治療のほかに小腸移植の適応となる場合があり,さらに高カロリー輸液による肝障害により肝移植が必要となる症例もある.[森川康英]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報