改訂新版 世界大百科事典 「腟杆菌」の意味・わかりやすい解説
腟杆菌 (ちつかんきん)
健康な成人女子の腟内に常住する非病原性・大型のグラム陽性杆菌。デーデルライン杆菌Döderlein's bacillusとも呼ばれる。乳酸杆菌の一種で,ラクトバチルス・アシドフィルスLactobacillus acidophilusと同種の菌であると考えられている。腟杆菌は乳酸を産生し,腟内を酸性に保ち,腟内に侵入してくる病原菌や雑菌の発育を抑制して,腟を清浄かつ健康に保っている。これは腟の自浄作用と呼ばれている。思春期になると,性ホルモン(エストロゲン)の作用によって,腟粘膜上皮層が発達し,上皮細胞中にグリコーゲンが蓄積するようになる。腟内で上皮細胞が剝脱(はくだつ)されると,細胞中のグリコーゲンが分解され,ブドウ糖を生じ,それらのブドウ糖が腟杆菌によって乳酸にまで分解される。その結果,腟内酸度が上昇し,腟内はpH3.0~5.0に保たれる。このため腟内の細菌は,ほとんどが腟杆菌で占められるようになる。
執筆者:川口 啓明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報