翻訳|puberty
青年期adolescenceとほぼ同義で,児童期から成人期へと移行する中間の時期をいう。ただし思春期というときは,青年の性的成熟に焦点が合わされる。つまり,小学校高学年ころから始まる二次性徴の出現(性徴),それに少しおくれて始まる異性への性欲的関心,異性への恋愛感情などに注目しての表現である。もちろんこの性的成熟は,この時期の人間にとってもっとも重要な発達課題developmental taskであるが,しかしそのほかにも抽象的思考力の発達,自分らしい生き方の模索など重要な発達課題がいくつかあり,それらを総合的に考えるとき,今日では青年期という,より広い概念が使われる傾向にある。
思春期に入り二次性徴の出現するころになると,それ以外にも次のような行動上の変化があらわれる。すなわち,身体的活動力の増大,親から距離をとろうとする試み(たとえば,親との外出を拒む),同性同年代の友人たちとのグループ的つきあいなどである。身体的活動力の増大は,ときに,内面的には気持の落着きのなさ,外面的には荒々しい身のこなし,不器用な動作を生む。親から距離をとろうとする試みは,最初はしばしば中途半端で,その結果反抗と依存の奇妙にいりまじった状態を生む。第二反抗期(反抗期)とよばれる時期である。また家庭外での友達づくりは,男の子なら男の子どうしで,しかもグループでの交際がふつうである。女の子をグループ内に入れることをこのまない。女の子とつきあうことに強い羞恥が表明される。異性への接近の試みが可能になるのは,思春期がいま少し進んでのちである。ところで,ふつう恋愛とよばれるにふさわしい異性関係が成立するには,それに先立って少人数の同年輩同性どうしの友情関係が形成されているのが望ましい。友人の幸福,友人の名誉を自分自身のそれと同じに重視するという経験があって,その延長上に同じく同年輩の異性との交流がおずおずと始められるのが,まずは健康な性的成熟の過程であろう。この過程を歩む青年は,しばしば内心に不安をもつ。たとえば自分の身体的な変化,異性についての考え方,異性との経験などがはたして友人たちにもあることなのか,それとも自分にだけ特別のことなのか等を気にする。そのようなとき同性同年輩の友人と自分たちの経験を話し合い,その同質さを確認し,あるいはその異質さを話題にすることは解決に役だつ。
青年期のいくつかの精神病理現象は,上記の発達課題にひそむ意外な困難さを示している。たとえば,思春期の女性がおちいる神経性食欲不振症(アノレキシア・ネルボーザ)には,成人の女性の身体をもつことを拒む心理が働いている。このことから,性的成熟のためにはそれを良しとして自分が引き受けるという心理的構えが必要である。また男子の中学生などが自分の体のかたち,性器の大きさ,体臭,視線を世界に二つとない異様な欠陥とみて引っこみ思案になることがあるが(対人恐怖),その際彼らがもっとも苦手とするのは同年輩者の集団である。身体的成熟には,友人関係の成立という社会的成熟も伴走する必要のあることを示している。
→思春期危機 →青年期
執筆者:笠原 嘉
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…動物の生殖腺(性腺)が成熟し,二次性徴が発現しはじめ,生殖可能になる生活史上の時期をさし,哺乳類に対してとくに用いる。ヒトでは思春期ともいう。たとえば,ヒトの場合,男性では急速な成長,恥毛や顔にひげの出現,声が低く太くなり,精神面での変化がともなう。…
…もっともよく用いられている区分法では,発育期は新生児期,乳児期,幼児期,少年期,青年期,成人期と六つの時期に区分される。少年期から青年期への移行期が思春期である。(1)体位の発育 身長,体重,頭囲,胸囲,座高などの身体計測値は,各人の総合的な発育の目安とされるが,いずれもほぼS字型のなだらかな曲線を描いて,青年期まで増大を続ける(ただし,頭囲だけは例外で,乳児期の発育速度が最大,スキャモンの成長型では脳・神経型に近い)。…
…第1に,細分化されたライフサイクル上で青年は比較的自立した移行期の位置を占めており,同時に青年期内部での分化が進んだ。今日では,第二次性徴の見られる女子10歳,男子12歳ころから14,15歳ころまでを青年期前期(思春期前期),14,15歳ころから18,19歳ころまでを青年期中期(思春期後期),18,19歳ころから30歳ころまでを青年期後期と区分する場合が多い。第2に,青年は孤独と内面の嵐の中に,自我の確立をめざすという顕著な行動特性を示した。…
…児童期と成人期の中間の時期をいう。思春期とほぼ同義だが,思春期というときは主として青年の身体的・性的成熟に焦点が合わされるのに対し,青年期というときは性的成熟以外の心理的・社会的成熟も念頭において,より全体的に,より広い観点でみている。青年期は身体的・性的成熟の起始とともにはじまり,心理的・社会的成熟の獲得で終わる。…
…この時期を反抗期というが,否定的行動が多彩に現れるので否定期と呼ぶこともある。今日では〈第1反抗期〉(幼児期),〈第2反抗期〉(思春期)をあげる2期説が一般的である。いずれも自我意識の発達に伴う自立・独立の欲求の高まりがその背後にある正常な現象であり,人格発達上重要な意義をもつものである。…
※「思春期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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