良性腎硬化症

内科学 第10版 「良性腎硬化症」の解説

良性腎硬化症(腎と血管障害)

定義・概念
 非悪性の本態性高血圧症に伴う腎病変に対する呼称で,長期間持続する高血圧によって出現した小葉間動脈や輸入細動脈の硬化病変を指す.
病因・病態生理
 病初期には糸球体毛細血管に掛かる内圧(糸球体血圧)は,正常である.これは,全身血圧上昇に対して輸入細動脈の血管抵抗が増加し自己調節能が維持されるためである.腎血流の減少にもかかわらず糸球体濾過量は保たれ濾過率は上昇する.蛋白尿は少なく,腎症の進行も緩やかである.
病理
 虚血性変化に基づいた糸球体の荒廃尿細管萎縮,間質の線維化を示す.糸球体に至るまでの小動脈や細動脈に出現する内膜・中膜の線維筋性肥厚とガラス様変性が主体で,糸球体には虚血性の “wrinkling collapse” が認められる.
臨床症状
 長期間(少なくとも5年,通常10年以上)にわたる高血圧の病歴が必須である.早期には腎機能正常で,蛋白尿も認めないが,長期間の高血圧持続後に蛋白尿が出現し,緩徐な腎機能低下と軽度な腎萎縮を認める (表11-8-1).左室肥大,脳症,網膜症など高血圧による臓器障害を有することが多い.
検査成績
 尿沈渣所見が重要であり,赤血球がほとんどなく,円柱なども軽度例が多い.蛋白尿は0.5 g/日未満にとどまることが多い.血圧コントロールによって尿蛋白が減少ないし消失することも少なくない.ただし,発見時にすでに腎機能障害があり,高血圧を伴う症例で病歴が不詳の場合には,正確な診断は困難である.
治療
 治療の主目的は腎障害のさらなる進展を防止し,残存腎機能を保持し,またほかの臓器に対する高血圧性障害を防止することにある.降圧薬治療が主体となるが,好ましい降圧薬や至適血圧レベルなどについては不明である.スタチン抗血小板薬も含めた総合的循環器リスク軽減療法が望まれる.
予後
 腎硬化症は一般には予後良好な疾患である.本態性高血圧では早期から確実な降圧療法を実施すれば末期腎不全に至ることを防ぎ得ると思われる.わが国においては末期腎不全の第3位を占める原疾患に位置づけられ,増加傾向にあると報告されているが,類似関連疾患(虚血性腎症など)との鑑別が問題視されている.[木村玄次郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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