蛋白尿(読み)タンパクニョウ

デジタル大辞泉 「蛋白尿」の意味・読み・例文・類語

たんぱく‐にょう〔‐ネウ〕【×蛋白尿】

尿中に一定量以上のたんぱく質がまざっている状態。生理的なものと、腎臓・泌尿器疾患に多くみられる。

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精選版 日本国語大辞典 「蛋白尿」の意味・読み・例文・類語

たんぱく‐にょう‥ネウ【蛋白尿】

  1. 〘 名詞 〙 溶解性蛋白が排泄された尿。主として腎疾患があるときに出る。〔医語類聚(1872)〕

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内科学 第10版 「蛋白尿」の解説

蛋白尿(腎・尿路系の疾患の病態生理)

(3)蛋白尿(proteinuria)
 蛋白尿は腎障害の重要な所見であるとともに,腎機能低下,末期腎不全,および心筋梗塞脳卒中などの心血管疾患のリスクファクターでもある.微量アルブミン尿程度のわずかな蛋白尿でもリスクとなり,尿蛋白量に応じてこのリスクは上昇する.
a.蛋白尿の定義
 尿中のアルブミン尿,蛋白尿の定義を表11-1-2に示す.蛋白尿は正常者でも尿中に検出できるが,総蛋白量で150 mg/日の場合に異常と定義する.正常域といわれる尿蛋白の組成は,糸球体より漏出するアルブミンが20〜30 mg/日,太いHenleの上行脚より分泌されるTamm-Horsfall蛋白(ウロモジュリン)やIgAが40〜60 mg/日,糸球体で濾過された低分子蛋白が10〜20 mg/日である. 尿蛋白の測定は24時間蓄尿が最も正確であるが,蓄尿ができない場合には,スポット尿により判断する.希釈尿や濃縮尿を補正するため,尿蛋白を尿クレアチニン(Cr)で除することによってえられる,尿蛋白/Cr比(protein/Cr ratio:PCR)を使用する.
ⅰ)無症候性蛋白尿(chance proteinuria)
 無症候性蛋白尿は3.5 g/日未満の蛋白尿を指す.この状態では浮腫などの症状はないことが多い.原因はさまざまであるが,1 g/日以上の尿蛋白を示す場合には糸球体性の尿蛋白であることが多く,また,腎生検の対象となる.
ⅱ)アルブミン尿(albuminuria)
 尿アルブミンは,糸球体障害の重要な指標であり,糖尿病においてはこれを定量し,診療の指標とする.尿アルブミンが30 mg/日以上の場合に,微量アルブミン尿と定義する.糖尿病性腎症の場合には,3回測定して,2回30 mg/日以上であれば腎症発症と診断する.300 mg/日以上の尿蛋白が続く場合には,顕性アルブミン尿と診断し,糖尿病性腎症3期に相当し,保険の適用からこれ以降は尿蛋白にて評価する.
ⅲ)尿細管性蛋白尿(tubular proteinuria)
 糸球体で濾過された少量のアルブミンや低分子蛋白などの蛋白は,近位尿細管で再吸収を受ける.尿細管の機能が低下している場合には,これらの尿蛋白の再吸収ができないため,尿中に蛋白尿が出現する.
ⅳ)オーバーフロー蛋白尿
 高濃度の異常蛋白症により,尿中に蛋白が漏出することによって発症する.骨髄腫において大量に産生される免疫グロブリン軽鎖の尿中排泄などが代表的なものである.これらの非アルブミン性の尿蛋白はアルブミンをおもに検出する検尿試験紙では陰性のことがある.
ⅴ)機能的蛋白尿
発熱,運動,心不全,交感神経亢進,高レニン血症などで起こる.機能性蛋白尿は一過性の糸球体内圧の亢進で起こると考えられ,正常状態に回復し,安静にすれば,消失する.
ⅵ)起立性蛋白尿(orthostatic proteinuria)
 直立,運動などで起こる蛋白尿で,機能性蛋白尿の一部である.小児,青年期に多い.就寝前に排尿させて集めた早朝第一尿にて,尿蛋白が陰性であれば,起立性蛋白尿と診断する.1 g/日をこえることはなく,予後は良好である.
b.蛋白尿出現の機序
ⅰ)糸球体の構造とアルブミン透過性
 アルブミンの糸球体透過性は,マイクロパンクチャーによる測定では22.9 μm/mLと非常に低い.このようにアルブミンの糸球体透過性を抑制しているのが糸球体上皮細胞(ポドサイト),内皮細胞,糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)よりなる糸球体係蹄である.糸球体の構造を図11-1-4に示す.糸球体内皮細胞は,fenestraという50〜100 nmの穴が開いており,アルブミンは自由に通過できる構造であるが,内皮の上にはグリコカリックスglycocalyx)という多糖外被が膜を作っており,陰性荷電しており,陰性荷電しているアルブミンと反発するため,内皮を通過しにくいようになっている. 糸球体基底膜はⅣ型コラーゲンとラミニンからなるメッシュ状の構造物で,ヘパリン硫酸プロテオグリカンで陰性荷電している(図11-1-4).従来はサイズバリアとなるため,68 kDaのアルブミン程度の大きさの蛋白が通過できる最大の大きさで,それ以上のサイズの蛋白は通過できないと考えられていた.しかし,IgGを含め200 kDaまでの大きさの分子が基底膜を通過して上皮下まで達していることが報告されている.この蛋白透過性の機序は拡散(diffusion)による可能性が示唆されている.したがって,最近ではGBMはサイズバリアとしての機能を有するが,ゲル状の性格ももつと考えられ,比較的透過性は高い可能性がある.
 ポドサイトは図11-1-4に示すように足突起(foot process)で近接するポドサイトとジッパー状に接触しており,足突起間にスリット膜という構造で閉じられている.このスリット膜は分子ふるいになっており,大きな蛋白の通過を阻止している.スリット膜の中心にあるのがネフリンと,Neph1である.これらのスリット膜を形成する分子が障害を受けた場合には,足突起の消失(foot process effacement)が起こり,大量の蛋白尿が漏れることが報告されている.したがって,アルブミンに対する最大のゲートキーパーはポドサイトであり,その足突起が重要であると考えられている.
ⅱ)近位尿細管でのアルブミン再吸収
 正常者の場合,糸球体で濾過されたアルブミンは近位尿細管で再吸収される(図11-1-4).近位尿細管には,アルブミンの受容体であるメガリン(megalin),キュビリン,amunioless(AMN)が発現しており,エンドサイトーシスにより再吸収され,ライソゾームにて分解される.このため,アルブミンは尿中にはほとんど排泄されない.
c.蛋白尿の疫学
 わが国の一般住民60万人の健診のデータからは男性の尿蛋白陽性率は年齢により増加し,20歳代では2%であるが,60歳代では5%,80歳代では8%に達する.女性は60歳代までは約2%であるが,70歳代では3%,80歳代では6%である(図11-1-5). 42万人の一般住民健診のデータでは,新規の蛋白尿陽性者は男性1.31%,女性0.69%であるが,持続性の蛋白尿となるものは男性0.33%,女性0.14%にすぎない.
 一方,3.5 g/日以上の尿蛋白を呈し,血清アルブミン値が低下するネフローゼ症候群の発症は,年間3800〜4500名と推定されている.
d.蛋白尿と腎機能低下
 蛋白尿が腎機能低下のリスクであることは,確立している.井関らの沖縄における住民健診の結果,検尿試験紙で検出される尿蛋白が多ければ多いほど透析導入・腎移植を必要とする末期腎不全になるリスクが高いことが報告されている.健診における3+以上の蛋白尿を示した症例は,17年間の追跡期間で16%が末期腎不全となり,蛋白陰性例に比較してオッズ比は2.71倍であった(図11-1-6).
e.アルブミン尿と心血管疾患
 尿蛋白が心筋梗塞,脳卒中,心不全などの心血管疾患の発症と密接に関係していることが報告されている.図11-1-7に示すように,正常アルブミン尿から,微量アルブミン尿,そして,顕性アルブミン尿へと増加するに従い,有意に心血管死亡のリスクは上昇する.これは,動脈硬化の状態をアルブミン尿が反映しているためであり,動脈硬化が進行するに従い,全死亡,心血管死亡が増加することを表していると考えられる.健診で発見される1+の蛋白尿は多くが微量アルブミン尿に相当し,この時点で,末期腎不全と心血管死亡のリスクが上昇していることを示している.[今井圓裕]
■文献
Iseki K, et al: Proteinuria and the risk of developing end-stage renal disease. Kidney Int, 63: 1468-1474, 2003.
Jarad G, Miner JH: Update on the glomerular filtration barrier. Curr Opin Nephrol Hypertens, 18: 226-232, 2009.
Nagai K, et al: Annual incidence of persistent proteinuria in the general population from Ibaraki annual urinalysis study. Clin Exp Nephrol, 2012 in press.
日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012.東京医学社,2012.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蛋白尿」の意味・わかりやすい解説

蛋白尿
たんぱくにょう
proteinuria; albuminuria

蛋白反応が現れる尿をいう。健康人の場合でも一時的あるいは継続的に,尿中に微量 (10~100mg) の蛋白が認められるが,1日 150mg以上となると異常であり,この尿を蛋白尿と呼んでいる。この蛋白質は血液中の血清アルブミン,グロブリン,ときにはフィブリノーゲン (線維素原) に由来する。腎性蛋白尿と腎外性蛋白尿に分けられ,前者は生理的と病的に分けられる。病的蛋白尿には発熱時の熱性蛋白尿,神経性蛋白尿,薬剤中毒による中毒性蛋白尿,循環器障害による蛋白尿,また白血病や壊血病,糖尿病などのときの悪液質性蛋白尿などがある。

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