日本大百科全書(ニッポニカ) 「萬川集海」の意味・わかりやすい解説
萬川集海
まんせんしゅうかい
「ばんせんしゅうかい」とも読む。忍術書、全22巻。1676年(延宝4)伊賀国阿拝(あへ)郡東湯舟(ひがしゆふね)(三重県伊賀市)の郷士、藤林左武次保武(さむじやすたけ)(保義(やすよし))の著。藤林氏は伊賀の上忍(じょうにん)藤林長門守(ながとのかみ)の後裔(こうえい)で、東湯舟は伊・甲両国の国境に近く、本書は伊・甲両忍の秘書として伝写されてきた。本書は楯岡(たておか)の道順(どうじゅん)ら11人の名人が用いた秘術や忍器をはじめ、古今四九流の忍書からの抜粋を体系的に集大成し、総論的な序・凡例・目録に次いで、忍術の倫理的な側面を強調した正心(せいしん)(2巻)、将知(しょうち)(5巻)、陽忍(ようにん)(3巻)、陰忍(いんにん)(5巻)、天時(てんじ)(2巻)と続き、陰忍として必須(ひっす)の忍器の製作・使用法を登器・水器・開器・火器に分けて説いている(5巻)。これらのなかには2巻にわたって多くの火器を列挙し、火薬の使用によって忍術が完成に至ったことを明らかにしている。なお、『忍術問答(由来之章)』『忍道梯階(ていかい)論』『和漢忍利証語抄(にんりしょうごしょう)』の3巻を付録させて完本としている。
[渡邉一郎]