日本大百科全書(ニッポニカ) 「蘐園随筆」の意味・わかりやすい解説
蘐園随筆
けんえんずいひつ
荻生徂徠(おぎゅうそらい)40歳ごろの著書。蘐園は徂徠の別号。1709年(宝永6)門人の手で編集開始、1713年(正徳3)近作を加えて完了、翌年刊行。古学の開創者伊藤仁斎(じんさい)への景慕が一転憎悪に変わったため、仁斎学の先駆性を認めながらも厳しい批判書となっている。付録を加えて5巻。巻1は排仏論、巻2は聖人制作論、巻3は仁斎道徳説の批判、巻4は文章論、天文暦数論、歴史論、巻5は「文戒」で先人の文章用語批判。徂徠自身も後年、本書を見識未定で「本心に背くもの」として否認したが、徂徠前半生の漢学の集大成で、すでに古文辞学的方法がとられており、本書は一躍徂徠の文名を高からしめた。初めて語学的立場にたつ実証的漢学を樹立した点に意義がある。『荻生徂徠全集 第17巻』所収。
[宮崎道生]
『岩橋遵成著『徂徠研究』(1934・関書院/復刻版・1982・名著刊行会)』▽『今中寛司著『徂徠学の基礎的研究』(1966・吉川弘文館)』