改訂新版 世界大百科事典 「農夫肺」の意味・わかりやすい解説
農夫肺 (のうふはい)
farmer's lung
農夫肺症ともいう。過敏性肺臓炎の一種で,カビの生えた枯草(牧草など)を取り扱う農夫にみられる病気。枯草に繁殖するカビはほとんどが好熱性放線菌であり,この胞子を吸入することによって起こる。急性型と慢性型がある。急性型はすでに好熱性放線菌に感作されているものが,再び菌を吸入することにより,吸入後数時間で症状が出現するもので,悪寒,発熱,空咳,息ぎれ,食欲不振,全身倦怠感,胸部重圧感などの症状がみられる。胸部X線写真では広範にすりガラス状,粒状陰影がみられる。患者を抗原から遠ざけると1日以内に症状は改善する。一方,慢性型は少量の放線菌に長期にわたってさらされ,症状が徐々に出現してくるものである。これらの一部は肺繊維症に進む。いずれも確定診断は血清中に放線菌に対する抗体を検出することである。根本治療はカビの生えた枯草からの隔離であるが,症状が強いときは副腎皮質ホルモンを使用する。
執筆者:伊藤 新作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報