副腎皮質より分泌されるステロイドホルモンの総称。コレステロールを原料として生合成される脂溶性ホルモンである。腎臓の上部に位置する総重量8~10グラムの内分泌腺(せん)を副腎という。副腎の中心部には外胚葉(がいはいよう)由来の髄質が存在し、その周囲を中胚葉由来の皮質が取り囲んでいる。
副腎皮質は外側より球状層、束(そく)状層および網(もう)状層の3層から構成されている。球状層では鉱質コルチコイドの1種であるアルドステロンが産生される。アルドステロンは腎臓の遠位尿細管に作用してナトリウムの再吸収およびカリウムと水素イオンの分泌を促進する。束状層からは主として糖質コルチコイドの1種であるコルチゾール(ヒドロコルチゾン)というホルモンが分泌される。コルチゾールは脂肪の分解や骨格筋におけるタンパク質の分解を促進する。その他、コルチゾールは肝臓におけるグリコーゲンの合成を亢進(こうしん)させ、免疫系を抑制し、骨形成の抑制と骨吸収の促進、さらには鉱質コルチコイド様活性などのさまざまな機能を有している。網状層からはおもに副腎アンドロゲンとよばれる雄性(男性)ホルモンが分泌される。
コルチゾールや副腎性アンドロゲンの分泌は主として脳下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって調節されている。一方、アルドステロンの分泌は主としてレニン‐アンギオテンシン系により調節される。レニンは腎臓の傍(ぼう)糸球体細胞で産生される酵素であり、血中でアンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンⅠに分解する。アンギオテンシンⅠはさらに肺循環中にアンギオテンシンⅡへと分解され、それが副腎に作用してアルドステロンが分泌される。
副腎皮質ホルモンの分泌異常症としては、アルドステロンの分泌亢進により高血圧および低カリウム血症がおこる原発性アルドステロン症、コルチゾールの過剰により肥満、高血圧、筋萎縮(いしゅく)、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や耐糖能障害などをきたすクッシング症候群、およびコルチゾールやアルドステロンの欠乏により、脱力、体重減少、食欲不振、低血圧などをきたすアジソン病などがある。
ステロイドホルモンは脂溶性のリガンド(情報伝達物質)であり、血液中では結合タンパク質と結合して存在するが、遊離型となって標的細胞内に入り、受容体と結合して核内へ移行する。ステロイドー受容体の複合体は標的遺伝子上の糖質コルチコイド応答配列あるいは鉱質コルチコイド応答配列に結合し、遺伝子発現を制御する。ステロイドホルモンは他のホルモンと比べ、その受容体が非常に多くの組織に存在するため、ステロイド薬は広範囲の疾患に有効である反面、副作用も広範囲におきる。
[小泉惠子]
副腎皮質から生成・分泌されるステロイドホルモンの総称で,同じ作用をもつ合成物質を含めてコルチコイドcorticoidまたはコルチコステロイドcorticosteroidともいう。副腎皮質ホルモンには,糖質コルチコイド(グルココルチコイドglucocorticoid)であるコルチゾル,コルチゾン,鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイドmineralocorticoid)であるアルドステロン,副腎性アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンなどがある。コルチゾル,コルチゾンは,肝臓におけるタンパク質からの糖新生を促進するほか,抗炎症・抗アレルギー作用などを示す。アルドステロンは,腎臓の遠位尿細管に働いて,ナトリウムイオンの再吸収およびカリウムイオンの排出を促す。デヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンのアンドロゲン(男性ホルモン)としての作用は,睾丸から分泌されるテストステロンに比べると弱く,副腎性アンドロゲンの本来の作用は,目下のところ不明である。また,これらの副腎性アンドロゲンは女性にも存在する。コルチゾル,コルチゾン,デヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンの副腎皮質からの分泌は,ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の支配下にある。アルドステロンもACTHの支配下にあるが,アンギオテンシンⅡやカリウムによっても,分泌が刺激される。脳下垂体腺腫からのACTH過剰分泌の結果,副腎からのコルチゾル分泌が増加したり,副腎に生じた腺腫から多量のコルチゾルが慢性的に分泌されると,クッシング症候群を呈する。また,副腎結核や特発性副腎皮質萎縮により,副腎からのコルチゾルの分泌が低下するとアディソン病となる。副腎腺腫から多量のアルドステロンが分泌されると,原発性アルドステロン症となる。
執筆者:関原 久彦
ホルモン剤としては,一般に糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドをさす。副腎皮質ホルモン剤は,副腎皮質機能低下症の補充療法に用いられるが,抗炎症作用や抗アレルギー作用に着目して広領域の臨床に応用されるのがむしろ一般的である。したがって,これらの作用を増強し,鉱質代謝や糖質代謝作用をできるだけ低く抑えた類似合成誘導体が多数開発され,実際に使用されている。この場合,膠原(こうげん)病(全身性エリテマトーデス,リウマチ熱,慢性関節リウマチなど),アレルギー疾患(気管支喘息(ぜんそく),薬物アレルギーなど),血液疾患(自己免疫溶血性貧血など),消化器疾患(潰瘍性大腸炎など),ネフローゼ症候群,内分泌疾患(亜急性甲状腺炎)などに広く適用される。しかし,このように対象疾患は長期にわたるものが多いので,連用による副作用には厳重な注意を要する。おもな副作用として,満月様顔貌,皮膚症状,高血圧,骨多孔症,筋萎縮,白内障,緑内障,消化性潰瘍,糖尿病増悪,感染症誘発などがあげられる。
執筆者:川田 純
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンの総称.また,これらと同様の生理作用をもつ合成ステロイド物質を含めてコルチコイドともいう.副腎皮質ホルモンは,活性のあるものとないものを含めて約50種類単離されているが,大部分は副腎皮質ホルモンの前駆物質,代謝産物などである.副腎皮質ホルモンは,副じん皮質刺激ホルモンの刺激により副腎皮質より分泌され,糖質コルチコイド(glucocorticoid),鉱質コルチコイド(mineralocorticoid),副腎性性腺ホルモンの三つのステロイドホルモンを分泌する.糖質コルチコイドは,副腎皮質の束状層より分泌され,コルチゾン,コルチコステロン,ヒドロコルチゾンなどがこれに属する.生理作用として糖質,タンパク質代謝作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用,免疫抑制作用などが主流であり,これらの作用にもとづき,副腎皮質機能不全症,リウマチ性疾患,アレルギー性疾患,皮膚疾患,慢性リンパ性白血病などの治療に用いられている.鉱質コルチコイドは副腎皮質の球状層より分泌され,アルドステロン,11-デオキシコルチコステロンなどがこれに属する.生理作用としては,水,電解質代謝作用がおもなものである.副腎不全の治療に用いられている.副腎皮質の網状層より得られる副腎性性腺ホルモンとしては,アドレノステロン,デヒドロエピアンドロステロン,プロゲステロンなどがあげられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…副腎皮質ホルモンの一つ。副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンには,ナトリウムイオンNa+,カリウムイオンK+および水分代謝作用の強い鉱質コルチコイドと,糖代謝等に対する作用の強い糖質コルチコイドの2種類がある。…
…脳下垂体前葉から分泌されるペプチドホルモンの一つ。副腎皮質に働いて副腎皮質ホルモンの生合成と分泌を促す作用をもつ。39個のアミノ酸からなり,分子量約4500。…
…それらの機能についてはまだわかっていないので,これらの物質をホルモンといえるかどうかわからない。(8)副腎皮質ホルモン 副腎のステロイド生産組織から分泌されるステロイドホルモンで,糖質コルチコイドとしては,哺乳類では主としてコルチゾルでコルチコステロンもいくらか分泌する。ネズミとウサギは主としてコルチコステロンを分泌する。…
…大量の薬用量での薬理的効果の利用である。また副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)も,臨床的に抗炎症剤として最も広範囲に使われているが,これも生体内の分泌量ではその治療効果は期待できない。糖質コルチコイド本来の作用を抑え,抗炎症作用が相対的に著しく高くなるような合成誘導体が種々開発されていることは,薬理作用を積極的に利用しようとする結果である。…
※「副腎皮質ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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