翻訳|chill
同じ意味で「悪感」という表記も見られる。例としては、夏目漱石「道草‐九」の「外ではしきりに悪感がした」など。
発熱の初めなどに感じる,ぞくぞくとした不快な寒けをいう。顔面蒼白となり,骨格筋の不随意的な震えを伴うことが多い(これを悪寒戦慄(せんりつ)という)。感染によって外因性発熱物質が体内に入ると,白血球などに作用して内因性発熱物質が産生・放出され,血行を介して体温調節中枢の存在する脳の視床下部を特異的に刺激する。その結果,体温の調節レベル(セットポイント)が正常時の約37℃から39℃あるいはそれ以上の高温に移動する。このとき実際の体温はまだほぼ正常レベルにあるので,目標温度にすみやかに到達するように急激な体温上昇反応がおこる。この時期に悪寒を感じ,皮膚血管は強く収縮して熱放散を減少させ,立毛筋が収縮して鳥肌となり,骨格筋は震えによって熱産生を増加させる。悪寒は,体温が上昇して新しい調節レベルに達するまで続く。体温がセットポイントに等しくなると悪寒は消失し,暑くも寒くも感じない。そして,この新しい高温レベルで体温調節が営まれるようになる。この状態は,発熱の原因が取り除かれて調節レベルが正常に戻るまで続く。
発熱初期に体温が上昇しはじめているにもかかわらず寒けを感じるのは,皮膚血流が減少して皮膚温が低下するためではない。皮膚温を一定に保ってもやはり寒けを感じる。この寒けは中枢性のものである。視床下部には脳温のわずかな上昇によって活動の増加する温感受性ニューロンと,低下によって増加する冷感受性ニューロンが存在し,発熱物質は前者を抑制し後者を促進する。そのため脳温が正常であっても,生体はあたかも体温が異常に低下したように感じるのであろう。皮膚血管収縮と震えによって高い体温レベルに達すると,発熱物質の温度感受性ニューロンへの作用が高い脳温によって相殺されるから悪寒が消失するのであろう。発熱物質が体内から消滅すると,体温のセットポイントは正常レベルに戻り,体温上昇期と対照的な反応,すなわち皮膚血管拡張や発汗によって体温はすみやかに下降する(これを分利解熱という)。
強い悪寒を伴う伝染性疾患には,大葉性肺炎,インフルエンザ,丹毒,発疹チフス,野兎病などがある。輸血後の発熱や尿道カテーテル使用後などにも悪寒を訴えることがある。しばしば繰り返して悪寒がおこる場合は,敗血症,膿瘍,マラリア,静脈炎,胆石症,細菌性心内膜炎,インフルエンザなどのウイルス疾患,分娩後の感染などが考えられる。結核や腸チフスでは悪寒戦慄はほとんどない。悪寒は感染の重要な徴候の一つである。まずその病因を明らかにしなければならない。解熱剤の投与によって体温を一時下降させると,再び発熱するときにまた悪寒戦慄がおこる。これを繰り返すと体力の消耗を招くので注意を要する。
→体温
執筆者:中山 昭雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…外因性発熱物質は反復投与されるとしだいに効果が減弱するが,内因性発熱物質ではこのような耐性は生じない。発熱のはじめには悪寒を感じる。このとき皮膚血管は強く収縮し,ときには震え(戦慄(せんりつ))を伴うが,体温が高くなって安定すると悪寒や震えは消失する。…
※「悪寒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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