近代民主政治(読み)きんだいみんしゅせいじ(その他表記)Modern Democracies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「近代民主政治」の意味・わかりやすい解説

近代民主政治
きんだいみんしゅせいじ
Modern Democracies

イギリスの政治家、政治学者ブライスの民主政治に関する古典的著作。全2巻。1921年刊行。原題の示すとおり、本書は複数の民主政治、具体的にはアメリカ合衆国、カナダオーストラリアニュージーランド、フランス、スイスの6か国における民主政治の実態を詳細に叙述し、それぞれの比較研究を通して相互の優劣長短を明らかにしようとするものである。彼はそれによって、実はイギリスで長年行われてきた政治的改革の方策をめぐる議論に確実な基礎を与えようとしたのであった(「序」)。したがって、本書の特色は、各国の民主政治の実際を著者が自らの目と足で直接に観察し、事実に基づいて叙述しようとした点にある。全体の構成は、「序」、第1編「民主政治一般の考察」、第2編「各国の実際の運営状況」、第3編「結論」からなる。民主政治を「投票によってその主権意志を表示する全国民の支配」(「序」)と定義する彼の民主政治観は、今日からみると楽観的すぎるきらいがあるが、しかし本書はあくまでも直接的な事実に密着した比較政治研究の先駆として、まさに記念碑的な名著といえる。

[柴田平三郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の近代民主政治の言及

【民主主義】より

…そもそも民主主義とは参加(政治参加)なのか抵抗なのか,仮に参加だとしても,民主主義はそれを支える特定の文化なしに実現可能か否か,一般に現状での参加は不十分であって,より多くの参加なしには真の民主主義とはいえないのではないか,いや政治過程への人々の活発な参加はむしろ端的に全体主義に帰着するのではないか,民主主義の統治能力は信頼しうるのか,さらにまた,国際間の問題を考えてみれば,かつてトックビルが期待したように,民主主義は必然的に平和主義をもたらすであろうか。民主主義にとって自治の実践の重要性を指摘した,現代民主主義論最大の古典の一つである《近代民主政治》(1920)の中で,J.ブライスは,〈民主主義は国際関係を改善し,平和を確保する点に業績が乏しかった〉けれども,それでも,大戦の〈禍害の責を負うべきは民主政治ではなく〉,責任は〈人間性における欠陥〉や〈傍若無人な軍事的野心〉や〈ナショナリズムの熱情〉にあると述べた。しかし,果たして安心してそういいきれるであろうか。…

※「近代民主政治」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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