ニュージーランド(読み)にゅーじーらんど(英語表記)New Zealand

翻訳|New Zealand

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニュージーランド」の意味・わかりやすい解説

ニュージーランド
にゅーじーらんど
New Zealand

南西太平洋にある島国。オーストラリアの南東に幅約2000キロメートルのタスマン海を隔てて位置する。主として北島(11万5777平方キロメートル)と南島(15万1215平方キロメートル)の2島からなり、ほかにスチュアート島チャタム諸島などの属島をもつ。面積27万0534平方キロメートル、人口373万7277(2001)。おおむね南緯33~53度、東経162~西経173度に入る。1907年イギリスの自治領となり、1947年正式に独立した。イギリス連邦(コモンウェルス)加盟国。公用語は英語。首都はウェリントン。また管理下の島嶼(とうしょ)にトケラウ諸島があり、クック諸島、ニウエとは自由連合の関係にある(日本は2011年3月にクック諸島を、2015年5月にニウエを国家として承認)。

 国名は、1642年オランダの探検家タスマンがスターテン・ラントStaten Landt(「南の国」の意)と命名したが、のちにオランダの一地方名をとりNieuw Zeeland(「新しいゼーラント」の意)としたことに由来する。また、先住民のマオリはアオテアロアAotearoa(「白い長い雲」の意)とよんだ。マオリはタヒチ近辺の中央ポリネシアを故郷とする人々であるが、19世紀なかば以来イギリスから多数の移民を受け入れた結果、ヨーロッパ系住民の割合が90%を占め、他のポリネシア島嶼と違った発展をした。オーストラリアとともに南半球におけるヨーロッパ系住民の多い国で、生活水準の高い完全福祉国家となっている。

 国旗は、イギリス連邦加盟国を表すユニオン・ジャックに南十字星を表す四つの星を配したもの。国歌はイギリス国歌の『ゴッド・セーブ・ザ・クイーン』と、トーマス・ブラッケン作詞、ジョン・J・ウッズ作曲の『ゴッド・ディフェンド・ニュージーランド』God Defend New Zealandの二つがあり、1977年以来、両者が同等の地位にある。

[浅黄谷剛寛・青柳まちこ]

自然

地形・地質

国土は環太平洋造山帯の一部をなし、主島の北島と南島が南北に連なってγ(ガンマ)状の形態をとる。地形は山がちで火山も多く、脊梁(せきりょう)山脈はとくに高峻(こうしゅん)である。標高200メートル未満の低地は全島の6分の1の面積にすぎず、平地に乏しい。200~300メートルの開析の進んだ丘陵ないし山麓(さんろく)部が3分の2を占め、残りが1000メートル以上の高地ないし山地である。南・北両島の脊梁山脈は、第三紀から第四紀更新世(洪積世)にかけてのカイコウラ造山運動によって今日の輪郭が完成した。北島は、脊梁山脈が東部を走り、中央部はタウポ火山帯とよばれる溶結凝灰岩の火山台地を形成する。ルアペフ火山(2797メートル)、ナルホエ火山(2291メートル)、トンガリロ火山(1968メートル)の三活火山がそびえ、タウポ湖からロトルア湖にかけては地熱地帯で温泉が湧出(ゆうしゅつ)し、一大観光地をなす。西端には円錐(えんすい)形のエグモント山(2518メートル)がそびえ、ニュージーランド富士の異名をもつ。南島は西岸寄りにサザン・アルプスが北北東―南南西の方向に走り、最高峰クック山(3764メートル)をはじめ、3000メートル級の高山が連なる。タスマン氷河フォックス氷河などの氷河、ワカティプ湖など数多くの氷食湖をはじめとする氷河地形を有し、南西岸には大規模なフィヨルド(峡湾)が発達する。山脈の東部にはこの国最大のカンタベリー平野が広がり、南部にはオタゴ高地が連なっている。

[浅黄谷剛寛・青柳まちこ]

気候

偏西風帯にあるため、北端部の亜熱帯地域と高山地域を除いてほぼ全島が西岸海洋性の温和な気候に支配されている。年平均気温は北島のオークランドで15.1℃、南島南端のインバーカーギルで9.8℃で、年較差もおおむね8~9℃と寒暑の差は大きくない。年降水量をみると大部分の地域は1000~1500ミリであるが、サザン・アルプスの西斜面は2000~6000ミリに達する。このため、広範囲にわたって氷河が形成され、ことに西斜面の氷河は密生する温帯雨林の間を縫って標高200メートル近くまで下降する。反対に東側は500ミリ未満の所もあり、ときおりフェーン現象もみられ、タソック(イネ科植物)の草原となっている。

[浅黄谷剛寛・青柳まちこ]

植物相

緯度的にみると、ニュージーランドは日本と似た位置にあるが、冬が暖かいため日本に比べて常緑林の占める面積が広い。北島は温暖で雨量が多いことから、巨木になるカウリ松Agathis australisのほか、ダクリディウム属、ナギ属、ナンヨウスギ属などの針葉樹と、ナンキョクブナ属、タワ属、ヒメフトモモ属、ホルトノキ属などの照葉樹型の広葉樹の混合した林の領域が広く、木生シダなども混じる。また、海岸にはマングローブがみられる。南島はサザン・アルプスが南北に走るため、植生は二つに分けられる。山脈の西側は雨量が多く、主としてナンキョクブナ属の林に覆われるのに対し、東側は乾燥して、乾いたイネ科のステップとなっている。山地ではナンキョクブナ属(種ではノトファグス・クリフォルトイデスNothofagus cliffortoidesなど)、あるいはリボセドルス属(種ではリボセドルス・ビドウィリーLibocedrus bidwillii)、ナギ属などの針葉樹による低い林がみられる。

 ニュージーランドには、シダ植物と種子植物を合わせて1850種ほどの植物があるが、そのうち、78%以上が固有種である。また、属レベルでは、アルセウオスミア属Alseuosmiaスイカズラ科)、ラブドタムヌス属Rhabdotamnus(イワタバコ科)、シャウイア属Shawia(キク科)など40の固有属があり、植物区系区ではニュージーランド区系区とされる。さらに、南アメリカ南部、タスマニア島、亜南極の諸島などとはアブロタネラ属Abrotanella、ディクソニア属Diksonia、レプトカルプス属Leptocarpus、リボセドルス属Libocedrus、ナンキョクブナ属Nothofagusなどの共通属があるため、区系界では南極区系界としてまとめられる。また、ニュージーランドには隣接のオーストラリア区系界や、ニューギニア島などの旧熱帯区系界と共通する種類も分布する。高山にはコメススキ属、リンドウ属、キンポウゲ属、アカバナ属などがあり、全北区系界に似ている。なお生態学的にみると、ヒツジなどの放牧で植生やフロラ(植物相)が破壊されている所や、ヨーロッパなどから持ち込まれた外来種によって自然が攪乱(かくらん)されている所も多い。

[大場達之]

動物相

ニュージーランドはきわめて古い島であり、1億年以上も前の中生代ジュラ紀末から生息する古いタイプの動物によって特徴づけられる。しかし、マオリの移住や、18世紀のヨーロッパ人の移住に伴って新しい動物が持ち込まれ、ニュージーランドに固有の動物は絶滅ないし絶滅寸前に追いやられている。

 ニュージーランドにもともと生息していた哺乳(ほにゅう)類はコウモリが2科だけである。その1科は固有のもので、ほかの1科はオーストラリア系である。鳥類は250種以上が知られ、世界的に広く分布するもの、オーストラリア系のもの、固有のものに分けられる。ニュージーランドに固有な鳥類で特徴的なのは、翼が退化して飛べない鳥である。国鳥として有名なキーウィ類、クイナ類、絶滅したモア類のほか、ガンの1種、スズメ科のニュージーランドサザイ、夜行性のフクロウオウムも飛べない。捕食者がいないことが、これらの飛べない鳥の進化を許したものと考えられる。爬虫(はちゅう)類では、ほかの地方では1億年前に絶滅した原始的なムカシトカゲが生き残っている。ヘビとカメの仲間は生息せず、ヤモリが1種いるが、卵胎性の固有種である。両生類は、変態後もしばらく尾が残っている原始的なカエル(ムカシガエル属Leiopelma)だけしかいない。淡水魚は本来は生息していなかった。

 マオリが持ち込んだ動物はイヌとネズミだけであったが、ヨーロッパ人は家畜のほかにもさまざまな動物を移入した。その目的は狩猟のため、毛皮をとるため、あるいはペットにするためなどであった。それらの動物はシカ類、シャモア、ネコ、イタチ、ウサギ類、ハリネズミ、キジ、ハト、ガン、ツグミ、カラス、スズメ、マスなどの淡水魚などである。

 移入動物の野生化および家畜の放牧による生息環境の破壊のため、ニュージーランドにもともとすんでいた固有の動物は、急速に姿を消していった。現在では、保護区の設置など固有種の保護の努力が払われている。

[新妻昭夫]

地誌

北島

ニュージーランド全人口の76%が北島に居住している。自然環境と行政区分を加味して、ここでは(1)ノースランド、(2)オークランド、(3)ワイカト地方、(4)中央部(火山台地)、(5)タラナキ地方、(6)マナワツ低地、(7)ウェリントン、(8)東部地方の八つの地域に分けて記述する。

 (1)北部のノースランドはかつてはカウリ松の森に覆われていた。東側のアイランズ湾には早くから捕鯨船や商人、宣教師などのヨーロッパ人が訪れた。1840年、ワイタンギ条約の結ばれたワイタンギもこの地域にある。(2)オークランドは人口100万人を数えるこの国最大の都市で、商工業の中心地である。また現在はマオリや太平洋諸島民をはじめとして、海外からの移住者の多数が住む多民族都市である。(3)ハミルトンを中心とするワイカト地方は、肥沃(ひよく)な大地に恵まれ農業が盛んである。(4)中央部はトンガリロ国立公園のある火山地帯で、標高2797メートルのルアペフ火山がその最高峰をなしている。ロトルア温泉やタウポ湖などの観光地がある。(5)南西部のタラナキ地方は富士山に似た美しいタラナキ山の山麓(さんろく)地帯で、この国最大の天然ガスの生産地である。中心都市はニュー・プリマスである。(6)酪農が盛んな地帯で、ワンガヌイ、パーマストン・ノース両市がある。(7)ウェリントンはイギリス移民の最初の入植地で、1865年以来ニュージーランドの首都として政治の中心である。背後が丘陵地のため、住宅地は北部のハット・バレーに延びている。(8)東海岸は牧羊・肉牛地帯であるが、ネーピア、ヘースティングズでは林業、園芸が行われ、ギスボンは漁港である。

[青柳まちこ]

南島

南島の中央部を南北にサザン・アルプスが走っており、この山脈の西側は多雨地帯、東側は少雨地帯である。(1)クック海峡地方、(2)ウェストランド、(3)カンタベリー地方、(4)オタゴ地方、(5)サウスランド、(6)チャタム島に分けて記述する。

 (1)クック海峡地方は園芸、肉乳牛飼育が行われている。(2)ウェストランドは人口が希薄で、北部に炭田がある。(3)カンタベリー平野は小麦とヒツジの混合農業地帯で、クライストチャーチはこの国第二の都市である。西側の山岳地帯では水力発電が盛んである。(4)かつてゴールドラッシュに沸いた地域で、ダニーデンはスコットランドからの移民によって開かれた都市である。(5)ミルフォード・サウンド、クイーンズタウンはフィヨルド観光の中心地である。(6)チャタム島は南島の海上に浮かぶ島で、マオリより先にこの地に到来し、マオリによって滅ぼされたといわれるポリネシア系のモリオリの居住地である。

[青柳まちこ]

歴史

先住民マオリ

ニュージーランドに最初に植民したのは、中央ポリネシアを故郷とするマオリである。彼らが最初にこの地を訪れたのは、8世紀ごろと考えられているが、14世紀の中ごろに7艘(そう)のカヌーによる大規模な移住があったと伝えられている。この移住にあたって、マオリは彼らの必要とする食物などを携帯したが、多くの熱帯の植物はここでは生育せず、新たに環境に適応する必要に迫られた。この地でマオリの主要な食物となったのは、サツマイモとシダの根である。大型の飛べない鳥モアは、彼らの狩猟によって絶滅してしまった。

[青柳まちこ]

探検と植民

最初にこの地を訪れたヨーロッパ人は1642年のオランダ人タスマンである。ついでイギリス人クックが数次の探険を重ねた。18世紀になると、すでにイギリスの植民地となっていたオーストラリアから、アザラシ狩猟者、アマや木材の商人、捕鯨船などが訪れるようになった。1814年にはキリスト教も伝えられた。

 1840年イギリス海軍大佐ホブソンは北島アイランズ湾のワイタンギで、マオリの首長たちと条約を結び、この地をイギリスの植民地とした。条約は3条からなり、それらは〔1〕マオリ首長らは彼らの所有する権利をすべてイギリス国王に移譲すること、〔2〕イギリス国王はマオリの所有する土地・森林・水産資源などを完全に保障すること、〔3〕マオリにイギリス国民としての特権が与えられることである。当初オーストラリアの一部に組み入れられたが、1841年より独立の植民地となった。

[青柳まちこ]

植民地の建設

ウェークフィールドEdward Gibbon Wakefield(1796―1862)はこの地に理想的な植民地を建設しようとの夢を抱き、ニュージーランド会社を設立した。最初の移民船がポート・ニコルソン(現在のウェリントン)に到着したのは1840年のことである。続いて会社はタラナキ、ワンガヌイ、南島のネルソンに入植地を設定した。

 1850年代のなかばになると続々と到着する移民たちの数がマオリを凌(しの)ぐようになった。植民者は土地を要求した。最初のころは売却の意味を理解せず、些細(ささい)な日用品で土地を手放していたマオリたちも、危機感から土地不売同盟を結び、政府と対抗するようになった。それがタラナキに端を発した土地戦争となり、両者は1860年から1872年にわたって断続的に戦闘を行った。この戦争と戦後の土地没収により、マオリはその土地のほとんどを失ってしまった。

 一方、1850年代に南島に金鉱が相次いで発見され、多くの人々がコーリングウッド、オタゴ、ウェストランドと、より豊かな金鉱を追って移動していた。ゴールドラッシュのころ、ダニーデンはこの国最大の大都会であったという。ニュージーランドの金の輸出は、1866年にピークに達した。

[青柳まちこ]

独立国としての歩み

婦人参政後の最初の選挙で首相となった自由党のセドンは、老齢年金法を定めたり、労働者の保護立法を進め、労働時間、最低賃金の規則など、今日の福祉国家の基礎を築いた。1907年自治領となり、実質的な独立を得たが、第一次世界大戦ではイギリスを援助してヨーロッパ戦線で戦い、トルコのガリポリで人口の65分の1を失うという多大の人的被害を被った。1919年には国際連盟に加入する。1930年前後の世界的不況はニュージーランドをも襲い、失業者は街にあふれ、1932年にはいくつかの都市で暴動が起きた。このような経済的混迷のなかで、1935年、ニュージーランド初の労働党政権がサベッジMichael Joseph Savage(1872―1940)によって成立し、労働者保護、社会福祉をいっそう強化する方向に進んだ。

 第二次世界大戦では連合国軍として参戦したが、これは第一次大戦参戦のようなイギリスに対する熱狂的祖国愛からではなく、むしろ太平洋における自国の防衛のためであった。戦後の1947年、外交面でもイギリスからの独立を達成した。戦後は安全保障面からアメリカとの協調路線が外交の大きな柱になった。

[青柳まちこ]

政治

1949年には国民党内閣が成立し、以後、労働党(1957)、国民党(1960)、労働党(1972)、国民党(1975)、労働党(1984)、国民党(1990)と二大政党が交互に政権を握っている。1996年の総選挙では、第一党の国民党がニュージーランド・ファースト党との連立政権を組んでいる。1997年には国民党党首シップリーJennifer Shipley(1952― )が同国初の女性首相に就任した。

[青柳まちこ]

国内政治

イギリス国王を君主とする立憲君主制で、君主の権限を代行するのは任期5年の総督である。1985年から1990年までの総督はマオリ、1990年から1996年までは女性であった。

 1852年選挙制度が確立し、1867年にはマオリの男性に選挙権が認められた。このときマオリ特別区が設けられ、マオリのために4議席が確保された。女性参政権も他国に先駆けて1893年に導入され、1919年には被選挙権にも拡大された。現在18歳以上の男女が選挙権をもつ。1951年以来国会は一院制である。

 1993年、選挙法の改正を問う国民投票が行われ、圧倒的多数によって、MMP方式(mixed-member-proportional system=小選挙区・比例代表併用制方式)の採用が決定した。これによれば各有権者は自己の所属する選挙区の立候補者を選出する1票と、政党を選択する1票を有することになる。新しい選挙法により議員定数はこれまでの99名から120名となり、うち64名が選出による議員、56名が政党別による議員である。マオリのこれまでの特別4議席は5議席に増加され、1996年の選挙では15名のマオリ国会議員が選出された。内訳は選挙区選出6名、政党選出9名である。

 1996年の総選挙での党派別議席分布は国民党(44)、労働党(37)、ニュージーランド・ファースト党(17)、連合党(13)、アクト・ニュージーランド党(消費者納税者同盟、8)、統一党(ユナイテッド・ニュージーランド、1)である。

 多数党の党首が総理大臣となる。内閣は総理大臣のほか最大20名の閣僚からなり、政府の政策決定に責任をもつ。1962年にオンブズマンが制定され、行政に関する市民からの苦情の調査にあたっている。

 司法は政府の権限とは独立して存在し、裁判官は総督によって任命される。法律は国会によって立法化されたものと、イギリスのコモン・ローで、憲法はない。裁判所は軽度の犯罪を取り扱う地方裁判所、すべての重要事件を取り扱う高等裁判所、上訴を取り扱う控訴院がある。控訴院の裁定に不服である場合、イギリスの枢密院に上訴することも可能である。また1975年、マオリの苦情に対処しそれを解決する機関としてワイタンギ審判所が設立され、1840年以降ヨーロッパ人から被った被害をマオリに賠償する作業が行われている。

[青柳まちこ]

外交

イギリス連邦の一員で、イギリスとの間には共通した歴史、慣習があり、いまなお多くの人々にとってイギリスは父祖の国である。現在もっとも緊密な関係にあるのは、兄弟国である隣国のオーストラリアである。1983年両国間に経済緊密化自由貿易協定(CER)が結ばれており、物とサービスの自由な取引が行われている。1952年からアメリカ、オーストラリアとともに、アンザス条約(ANZUS、軍事同盟)を締結していたが、労働党政府の非核政策のために、1985年アメリカとの関係が冷却化した。国民党政権の下で両国の関係の正常化が図られている。

 国土が南太平洋に位置する関係から、今日ではとくにアジア太平洋地域との密接な関係を志向しており、太平洋諸島フォーラム(PIF)を通して経済協力が前進している。フランスの核実験に関しては南太平洋諸国とともに強力な反対運動を展開した。

[青柳まちこ]

国防

ニュージーランド総督の下に陸・海・空の3軍が編成されている。正規軍の勢力は陸軍4500人(歩兵大隊2、砲兵中隊1など)、海軍2150人(フリゲート艦3、哨戒艇(しょうかいてい)4など)、空軍3220人(対地攻撃戦闘飛行隊2、海上偵察飛行隊1)で、1996年の国防予算は7億2800万ドルである。1950年以来徴兵制が施行されていたが、1962年から選抜式義務教練制にかわり、1970年以来志願制である。

 核兵器積載艦、原子力艦の寄港を容認しない労働党政権は、1985年アメリカ艦の寄港申し入れを拒否したため、アメリカはニュージーランド防衛義務を停止し、1952年以降継続してきたアンザス同盟は事実上停止した。

[青柳まちこ]

経済

概観

1996年度(1996年7月~1997年6月)財政は予算歳入332億4300万ドル、歳出328億7000万ドルである。ニュージーランド経済の特色は貿易依存度が非常に高いことである。酪農製品、食肉、羊毛といった第一次産品が輸出収入全体の4割を占めている。産業別労働人口も第一次産業従事者の割合が他の先進諸国に比べて高い。かつては経済に対する国の介入の度合いが大きく、金融、運輸、通信、動力、資源、観光など国営事業の比率が高かったが、1980年代から行政改革、規制緩和、民営化が進み、外国為替(かわせ)取引規制、輸入免許制、製造業者・輸出業者・農民への補助金は全廃された。現在は世界でもっとも自由化の進んだ経済と評価されている。民営化に伴って国営資産を売却し売却金を債務償還にあてたため、159億ドルに達していた債務は1996年ゼロとなった。

[青柳まちこ]

エネルギーと鉱物資源

豊富な河川を利用して水力発電を行い、電力総需要量の7~8割を満たしている。南島の発電所からは高圧海底ケーブルを用いて、人口の多い北島に送電している。残りの電力は石油、ガスによる発電で補っているが、地熱蒸気も発電に利用されている。安全性を考慮して原子力発電は取り入れられていない。

 鉱物資源はとくに豊かではないが、石炭は最大の資源で潜在埋蔵量は86億トンといわれ、炭鉱は北島ワイカト地方と南島北西部にある。タラナキ地方で生産される天然ガスは一部が発電に、一部が合成ガソリンの生産に使用される。砂鉄は国内の鉄鋼生産に用いられるほか、日本にも輸出されている。チタンの採鉱も南島で開始され、また太陽熱により年間6万トンの塩が生産され、国内消費にあてられている。

[青柳まちこ]

農牧業・林業・漁業

耕地面積は両島あわせて1660万ヘクタールであるが、ニュージーランド農業は牧草への依存度が非常に高く、牧畜・酪農地が80%で、耕作地は1%に満たない。かつては人間1人当り20頭のヒツジがいるといわれたが、頭数が減少し、現在では約14頭である。最上の牧草地では1ヘクタール当り25頭のヒツジ飼育、また3.5頭のウシ飼育が可能である。乳牛384万頭、肉牛505万頭、ヒツジ4947万頭(1994)が飼育されている。1970年代以降飼養が盛んとなったシカは123万頭を数える。農業の生産性はきわめて高く、農業技術は世界一流である。食肉はニュージーランドの最大の輸出品で、ラムの83%、マトンの64%、ウシの81%が輸出されている。

 国土の4分の1が森林に覆われ、約620万ヘクタールが天然林、130万ヘクタールが生産林で、その9割を生長が早く用途の広いラディアタ松が占め、世界のラディアタ松の3割強を生産している。

 排他的経済水域は200海里で、広大な漁業域を有する。ここでは経済的価値の高い熱帯マグロ、タイ、エビ、サケ、ヒラメ、イカなどの魚がとれる。

[青柳まちこ]

工業

製造業従事者の割合は、機械器具関係27%、食品・飲料・タバコ関係25%、繊維・衣服・皮革関係11%、木材加工11%、製紙・印刷・出版11%、化学薬品・石油・石炭・ゴム・プラスチック9%である。機械器具の部門は、商工業・医療・通信・家電製品が主要なものである。自動車は国内市場用に生産されているが、自動車部品は輸出に向けられている。食品産業では食肉加工の従事者が圧倒的に多い。羊毛製品は世界の総生産量の11%を生産している。

[青柳まちこ]

貿易

輸出入とも最大の相手国はオーストラリアで、1995年の統計によれば輸出総額の20.8%、輸入総額の20.9%を占める。1990年以降オーストラリアとの間には両国間の自由貿易を促進する協定が結ばれている。ほかの主要輸出国は日本、アメリカ、EU(ヨーロッパ連合)など、主要輸入国はアメリカ、日本、イギリスなどであるが、オーストラリア、アメリカを含めたAPEC(アジア太平洋経済協力)諸国との輸出入だけで71~72%に及んでいる。輸出は酪農製品と食肉、木材、羊毛などが中心で、輸入は自動車、電気機械などである。

[青柳まちこ]

交通

オークランド、ウェリントン、クライストチャーチが国際空港で、国際線に就航するニュージーランド2社のほか、外国航空会社25社が乗り入れている。またほとんどの都市間を国内線が連結している。輸出入貨物の9割以上が海運によっており、コンテナ船、貨物船は主要13港に定期的に寄港している。国内交通は自動車が主で、道路網はよく発達している。個人所有の普通乗用車は165万台で、人口2人強に1台の割合である。鉄道はこれまで政府経営であったが、民営化政策によって、1995年外国系企業に売却され、経営が続けられている。全長4000キロメートルであるが、大部分は貨物用である。

[青柳まちこ]

観光

観光はニュージーランドの主要産業の一つで、外国人観光客の誘致に力が入れられている。ニュージーランド最大の観光資源は美しい自然であり、北島のトンガリロ国立公園、南島のフィヨルドランドはじめいくつかの国立公園がある。自然保護には厳しい政策がとられ、環境に対する人々の意識も高い。南島カイコウラ付近でのクジラ見物のほか、山登り、スキー、釣りなど美しい自然のなかでの各種スポーツも観光客に人気がある。ロトルアには間欠泉があり、付近にはマオリの復原村落がある。外国人観光客は153万人(1996)、1位はオーストラリア人で29%、2位は日本人で11%を占めている。

[青柳まちこ]

社会・文化

住民・人口

先住民マオリの人口は初めて統計がとられた1858年には5万6000人であったが、19世紀末には4万2000人と最低を記録した。その後マオリ人口は増加に転じ、2001年の国勢調査では52万6281人(総人口の14%)である。マオリの大部分は北島に居住し、とくに1950年代からは都市への移住が顕著である。南太平洋からの移住者の多くもオークランド近郊に住む。自らをヨーロッパ人と回答した者は総人口の8割で、その先祖は主としてイギリスであるが、ドイツ、北欧、イタリアなども含まれている。

 全人口の約4分の3が北島に住む。都市集中は著しく、2001年の国勢調査によれば五大都市の人口はオークランド36万7734人、クライストチャーチ31万6227人、マヌカウ28万3200人、ノースショア18万4821人、ウェリントン16万3824人である。このうちマヌカウ、ノースショアはオークランド近郊都市であるので、大オークランド圏の人口は107万4507人と100万人を超え、総人口の3割を占める。国土の大部分が山がちであるので、人口密度は1平方キロメートル当り13.8人と低い。

[青柳まちこ]

社会福祉

世界でもっとも進んだ福祉国家として知られ、8時間労働制(1873)、最低賃金制(1894)、児童手当制(1926)などを最初に制定した国である。保護保障は労働者や高齢者のみでなく広く国民一般に開かれ、質の高いサービスが提供されていた。しかし1973年のイギリスのEC(ヨーロッパ共同体)加盟とその翌年のオイルショック以後、財政が悪化し、この分野にも競争原理が取り入れられることとなった。そのため現在福祉政策は大幅な後退を余儀なくされている。

[青柳まちこ]

教育

6~15歳までは義務教育であるが、5歳で小学校に入学する子供が多い。公立小学校は共学である。小学校入学以前の幼児を対象としたコハンガ・レオはマオリ語およびマオリ文化を学習する機関である。通常13歳で中等学校に進み、3年の課程を終えると全国共通試験を受ける。七つの国立総合大学と一つの私立大学、それにマオリによって運営されている二つの高等教育機関がある。大学と並んで専門教育をより広い立場で提供している教育機関として、全国に25のポリテクニクがある。また、遠隔地に住む子供や身体に障害をもち、通学が困難な子供のために通信教育が行われ、テープや放送を利用するほか、教師の家庭訪問による授業もある。

[青柳まちこ]

スポーツ・文化

さまざまな屋外スポーツが盛んである。なかでも国技ともいえるラグビーの人気は高く、オール・ブラックスは世界最強のチームの一つである。国際的水準にあるものとしては陸上競技、クリケット、スカッシュ、馬術などがある。ヨットも世界的レースを制する成績を残している。

 文学者としてはマンスフィールドがもっとも有名であるが、社会派リアリズムのサージソン、また近年はヒュームKeri Hulme(1947―2021)、ダフAlan Duff(1950― )、イヒマエラWiti Ihimaera(1944― )などのマオリ作家の活躍が目だっている。画家としてはホジキンズFrances Mary Hodgkins(1869―1947)、声楽家としてはキリ・テ・カナワKiri Te Kanawa(1944― )が傑出している。

[青柳まちこ]

日本との関係

第一次世界大戦ではイギリスとの同盟関係にあった日本は、ヨーロッパ戦線に出撃するニュージーランド艦隊の護衛にあたった。第二次世界大戦では、両国は直接交戦することはなかったが、南太平洋で捕虜となった日本兵の収容所がフェザストンに設けられた。

 1943年2月にこの収容所で起きた蜂起(ほうき)事件では、日本兵死者48名、ニュージーランド兵死者1名のほか、多くの負傷者を出している。戦後はニュージーランド兵の日本進駐、および朝鮮戦争への参加を通じて、一般のニュージーランド人が一般の日本人と接触する機会が増加した。

 イギリスのEC(ヨーロッパ共同体)加入に伴って、アジアに目を向け始めたニュージーランドは日本と急接近するようになった。1960年代に6割を占めていた対イギリス貿易は減少し、当時1%にすぎなかった対日貿易は1980年代になると10%に急浮上する。1995年の統計によれば、日本はニュージーランドの輸出相手としてオーストラリアに次いで2位、輸入相手国ではオーストラリア、アメリカに次いで第3位を占めており、それぞれ34億1600万ドル(16.3%)、31億7600万ドル(14.9%)である。日本向け輸出品は木材、アルミニウム、有機化学物質、魚類、輸入品は車、機械、電子機器などである。

[青柳まちこ]

『シンクレア・キース著『ニュージーランド史』(1982・評論社)』『小松隆二著『理想郷の子供たち』(1983・論創社)』『ニュージーランド外務貿易省『ニュージーランド』(1995)』『小松隆二著『ニュージーランド社会誌』(1996・論創社)』『高橋康昌著『斜光のニュージーランド』(1996・東苑社)』『『New Zealand Official Yearbook』(1996)』『青柳まちこ編『もっと知りたいニュージーランド』(1997・弘文堂)』

世界遺産の登録

ニュージーランドでは「テ・ワヒボウナム 南西ニュージーランド」(1990年、自然遺産)、「トンガリロ国立公園」(1990、1993年、複合遺産)、「ニュージーランドの亜南極諸島」(1998年、自然遺産)がユネスコ(国連教育科学文化機関)により世界遺産に登録されている。

[編集部]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニュージーランド」の意味・わかりやすい解説

ニュージーランド
New Zealand

正式名称 ニュージーランド。マオリ語では Aotearoa。
面積 26万5685km2
人口 515万2000(2021推計)。
首都 ウェリントン

南太平洋,タスマン海を隔ててオーストラリアの南東約 1600kmにある国。ノース島サウス島の 2大島および周辺の属島で構成される。環太平洋造山帯に属するが地形は南北で対照的で,ノース島に活火山が多く丘陵が卓越するのに対し,サウス島にはサザンアルプスの高山が連なり,氷河氷河湖が見られ,カンタベリー平野など広い平野が発達。温和な気候と水資源に恵まれ,高水準の農牧業や水力発電が行なわれる。住民のうち約 70%がイギリス系の移住者とその子孫であり,マオリ族は人口の約 15%を占め,わずかながら中国人,インド人などもいる。ポリネシア系住民がニュージーランドで生活を始めた時期は,少なくとも前3~前1世紀にさかのぼる。1642年オランダのアベル・ヤンスゾーン・タスマンが来航,1769年のジェームズ・クック上陸を経て,1840年にイギリス植民地となった。植民地政府とポリネシア系先住民マオリ族との土地をめぐる争いは 19世紀半ば以降マオリ戦争に発展し,勝利した植民地政府はマオリ族の多くの土地を没収した。1907年にイギリス自治領となり,1947年に独立。複数の文化・言語が共存する国づくりが進むなか,マオリ族文化の保護や,マオリ族とサモアトンガからの新移民との関係改善などの問題も存在する。公用語は英語とマオリ語のほか,2006年にニュージーランド手話が加わった。人口分布の特徴はノース島と都市への集中で,オークランド,ウェリントン,クライストチャーチダニディンの 4大都市圏に人口の 50%以上が居住する。高い生活水準と 1898年以来の伝統をもつ社会福祉制度を支える経済は,基本的に農牧産品の輸出に依存している。農林水産業従事者は労働人口の 1割に満たないが,農牧産品輸出額は輸出総額の 50%近くを占め,その中心は肉,羊毛,酪製品。伝統的にイギリスを市場としてきたが,イギリスのヨーロッパ共同体 EC加盟以後,オーストラリア,中国,アメリカ合衆国,日本が主要輸出先となっている。工業の重要性は第2次世界大戦後急速に高まり,国内生産額の 3分の1を占めるオークランド地方を中心に各地に分布。一般的な国内消費財の製造業のほか,食品加工,森林資源による木材,紙・パルプ工業,石炭,鉄などの鉱産資源や水力発電をいかしたアルミニウム精錬,化学工業などに特色がある。(→ニュージーランド史

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