日本大百科全書(ニッポニカ) 「返閇」の意味・わかりやすい解説
返閇
へんばい
特殊な足踏みの呪術(じゅじゅつ)的動作。陰陽道(おんみょうどう)の邪気を祓(はら)う呪法で、足拍子を踏むことにより、大地を踏み鎮め、悪霊を祓うとされる。返閉とも書く。禹歩(うほ)と同じ。古代、天皇または貴人の出御の前に陰陽師が行った。寺院における呪師の行法や、修験道(しゅげんどう)の行法にも取り入れられている。東大寺修二会(しゅにえ)には呪師の行う「達陀(だつだ)の妙法」という呪術的な足踏みがある。日本の芸能には、芸能化した返閇が数多く踏まれている。能の『翁(おきな)』『三番叟(さんばそう)』の足拍子や『道成寺(どうじょうじ)』の乱拍子(らんびょうし)などのほか、民俗芸能にはとくに顕著である。東北地方の山伏神楽(かぐら)や番楽(ばんがく)では三足、五足、七足、九足などの足踏みがあり、「けんばい」「けんだい」といい、三河の花祭では「へんべ」ともいう。
[渡辺伸夫]