普通は4月8日の灌仏会(かんぶつえ)を花を飾りたてて行うことから花祭という。近世に,浄土宗が灌仏会を花祭と称してから,この名称が一般に広まった。
民俗学では,花祭といえば灌仏会のことではなく,愛知県北設楽郡を中心に長野・静岡・愛知の県境の二十数ヵ所に分布する霜月神楽(しもつきかぐら)をいうことが多い。花祭は花神楽ともいわれ,現在では十数ヵ所に減り,祭日も旧霜月から1月初旬に変わり,内容もしだいに略化されつつある。昭和のはじめに,折口信夫や早川孝太郎に注目されて,中央に知られるようになった。仮面舞には古い能を思わせるものもあり,芸能史のうえで資料的価値が高いとされている。花祭は,花太夫あるいは花禰宜と称する者を中心に宮人(みようど)という人々が集まって祭祀集団を形成し,これに村の子どもから青年までが加わって,約2日間続けられる。まず花太夫,宮人たちだけの行事からはじまる。滝祓,辻固めなど祭場(花宿の舞処(まいと))の周辺をはらい清め,次に釜祓や各祭具を聖別し,神を勧請する。このあと,花の舞,地固め,三つ舞,四つ舞,湯囃子などの舞,山見鬼,榊鬼,朝鬼など鬼の登場する舞,翁,ひのねぎ,みこなどの演劇風の舞の3部構成の行事が連続して行われる。花の舞は最年少の者の舞で,扇,湯桶,盆の手があり,しだいに年齢があがっていく。地固め,三つ舞,四つ舞には,扇,ヤチ,剣の舞の手があり,高度な舞になっている。花祭のクライマックスは,湯囃子と鬼の舞である。また翁などの演劇風の舞では,この行事の正統性が述べられる。最後はひいな下しなどで神送りの神事を行い神部屋で鎮めを行う。
執筆者:宇野 正人
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愛知県北設楽(きたしたら)郡の東栄町、豊根(とよね)村を中心に近郷の山間部で12月から翌年1月にわたって行われる神楽(かぐら)。花神楽または単に花ともよばれる。湯立(ゆだて)を中心とした霜月(しもつき)神楽である。花祭の花は稲の花を意味するとか、鎮花祭の花、花山(かざん)院を祀(まつ)った花山祭(はなやままつり)の略称とか、常磐木(ときわぎ)を意味する花とか諸説がある。中世末期に山伏修験(しゅげん)の徒によってこの土地に定着した祭りで、祭りに携わるのは宮人(みょうど)とよぶ特別な家系の人々で、その中心となるのが花禰宜(ねぎ)(花太夫(だゆう)とも)とよぶ専門の神人(しんじん)である。民家あるいは神社や公民館の土間を舞処(まいと)とし、土間の中央にかまどを築き大釜(おおがま)をかけて湯を沸かす。天井に五色の紙飾りの白蓋(びゃっけ)という一種の天蓋(てんがい)をつるし、また四方にザゼチという切紙飾りをつける。こうした祭場で一昼夜にわたり儀式と芸能が演じられる。芸能は大別すると素面の舞(地固めの舞、市(いち)の舞、花の舞、三つ舞、四つ舞、湯ばやしなど青少年の舞)と、仮面の舞(山見(やまみ)鬼、榊(さかき)鬼、朝鬼、翁(おきな)、禰宜、みこ、獅子舞(ししまい)、しずめの舞など)からなる。鬼はヘンベ(返閇(へんばい))という悪霊を鎮める足踏みを行い、榊鬼や翁などの舞には花禰宜との間に問答がある。これら仮面の舞には能大成以前の古い猿楽(さるがく)芸が想定され、芸能史的価値が高い。国指定重要無形民俗文化財。
[渡辺伸夫]
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出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
…平安時代以後,各宗寺院で盛んに行われ,宮廷行事となったほか,貴族と庶民の区別なしに広く一般化することは諸種の年中行事資料やイエズス会宣教師の報告書にもみえる。とりわけ,黄檗宗(おうばくしゆう)の伝来とともに,甘茶を灌ぐ風が江戸時代に広がり,日本仏教の特別の行事として今日に及び,すでに俳句の季題や文学のテーマとしても,花祭の名で定着する。【柳田 聖山】。…
…20年に柳田と共著で《オトラ狐の話》を出し,続いて《三州横山話》(1921),《猪・鹿・狸》(1926)を刊行する。30年には渋沢敬三の援助のもとに,郷里の民俗芸能である花祭の精細なモノグラフ《花祭》前後編2巻を刊行する。33年には九州帝国大学農学部の小出満二の助手となり,農業経済の研究に従事する。…
※「花祭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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