悪霊(読み)アクリョウ

デジタル大辞泉 「悪霊」の意味・読み・例文・類語

あく‐りょう〔‐リヤウ〕【悪霊】

人にたたりをする霊魂。物の怨霊おんりょう。あくれい。
[補説]書名別項。→悪霊
[類語]怨霊物の怪死霊生き霊

あくりょう【悪霊】[書名]

《原題、〈ロシアBesïドストエフスキー長編小説。1870~1872年に発表。無神論的革命思想にかれた人々の破滅を描く。

あく‐れい【悪霊】

あくりょう(悪霊)

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精選版 日本国語大辞典 「悪霊」の意味・読み・例文・類語

あく‐りょう‥リャウ【悪霊】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 人にたたりをする霊魂。死者の霊についていうことが多いが、生者の魂、人間以外の霊的存在についてもいう。もののけ。怨霊(おんりょう)。あくろう。あくれい。
    1. [初出の実例]「あくりゃうは執念(しふね)きやうなれど業障(ごふしゃう)にまとはれたる、はかなものなり」(出典源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
    2. 「死するともあくりゃうとならん」(出典:義経記(室町中か)三)
  2. [ 2 ] ( 原題[ロシア語] Bjesy ) 長編小説。ドストエフスキー作。一八七一~七二年に発表。いわゆる「ネチャーエフ事件」を題材に、無神論的革命思想に憑かれた青年たちの破滅を批判をこめて描いた。

あく‐ろう‥ラウ【悪霊】

  1. 〘 名詞 〙あくりょう(悪霊)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「あくらうは、執念(しふね)きやうなれど」(出典:青表紙一本源氏(1001‐14頃)夕霧)

あく‐れい【悪霊】

  1. 〘 名詞 〙あくりょう(悪霊)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「Acurei(アクレイ)、または、アクリャウ」(出典:日葡辞書(1603‐04))

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「悪霊」の意味・わかりやすい解説

悪霊(霊的存在)
あくりょう

人間に災禍、不幸をもたらす邪悪な霊的存在のこと。ただし悪魔、悪鬼、精霊、死霊などとの区別はあいまいである。また善霊との境界も明らかでなく、同一の霊的存在が善悪両面をもつ場合が少なくない。日本では祟(たた)りをなす霊魂を御霊(ごりょう)とよんで恐れた。御霊はこの世に恨みを残して死んだ高貴な人の霊魂で、神として祀(まつ)り上げることによってその怒りや恨みを鎮める。民間でも無縁仏非業(ひごう)の死を遂げた者の霊が人々に危害を与えるという信仰が各地にみられる。また疫病(えきびょう)や虫、鳥、獣などの農作物に対する害は悪霊のためであるとして村の外へ送り出す行事もある。キツネヘビ、犬神、生霊などの憑(つ)き物もしばしば悪霊とよばれる。諸外国でも悪霊信仰は多く、とくに妖術(ようじゅつ)信仰や精霊憑依(ひょうい)信仰との結び付きが強い。

 悪霊はさまざまな面で善、神に対するもの、あらゆる意味で邪悪なもの、あるいは周辺的なものとイメージされる。すなわち、薄暗い所に潜み、夜に活動し、醜悪な姿、性的に異常、貪欲(どんよく)、人肉嗜好(しこう)、不幸を喜ぶ、気まぐれ、といった反社会的、反文化的性格を備え、その出自も他民族、他部族、他村などに求めることが多い。このような悪霊信仰は、人間が幸福を願い、そして現実には多くの不幸がある限り、その説明原理として、善霊や神の対立物として、道徳的、社会的秩序の対立物として、あるいは人間の心や社会に潜む悪の告白として必要であるともいえる。

[板橋作美]


悪霊(ドストエフスキーの小説)
あくりょう
Бесы/Besï

ロシアの作家ドストエフスキーの長編小説。1871~1872年に『ロシア報知』に発表。聖書に、悪霊(悪鬼)に憑(つ)かれておぼれ死ぬ豚の群れの記述があるが、この作品は無神論革命思想をその「悪霊」に見立て、それに憑かれた人々の破滅を描こうとしたもので、実在のアナーキスト革命家ネチャーエフ(小説ではピョートル・ベルホベンスキー)が転向者イワノフ(シャートフ)を惨殺したリンチ事件に取材している。小説はこの事件を軸に、父の世代の自由思想家ステパン、人神論者キリーロフ、民族主義者シャートフ、専制社会主義者シガリョフら、錯雑した登場人物の重厚な思想的ドラマとして展開するが、「真の主人公」はそのいっさいの背後にある謎(なぞ)めいた存在スタブローギンで、彼については別に「告白」の章も残され、もっともドストエフスキー的な人物像として有名。革命や組織の問題について現代を予見した書とされ、日本の連合赤軍リンチ事件は小説発表の100年後に起こった。

[江川 卓]

『江川卓訳『悪霊』全二冊(新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「悪霊」の意味・わかりやすい解説

悪霊
あくりょう
Besy

ロシアの作家 F.ドストエフスキーの長編小説。 1872年発表。 69年にモスクワの農業大学の学生イワーノフが革命秘密結社脱退を申出たことによって,ネチャーエフを首領とする同志に惨殺されたという「ネチャーエフ事件」が執筆の直接的動機となり,この事件とその人物たちをモデルとして書かれた。根底には,作者が以前から暖めていた「無神論」のテーマが横たわる。 40年代の理想主義的リベラリストのステパン氏,その教え子で悪魔的な知力と矛盾する思想をいだいた超人タイプのスタブローギン,ステパン氏の息子で5人組の首領ピョートル,裏切者として暗殺されるシャートフ,人神思想を説き,自殺することによってみずから神になろうとするキリーロフなどのみごとな芸術形象を創造したことによって,きわめて独創的な作品となっている。

悪霊
あくりょう

ものの怪 (け) ともいい,人間について,病気などの異常を起す神やものをいう。ときに人間のからだから抜け出た分離魂,すなわち生霊,死霊が悪霊となることがある。悪霊は神仏の威力により退散させうると考えられ,加持祈祷,呪文などが行われた。日本における悪霊信仰は平安時代に最も盛んで,『源氏物語』や『紫式部日記』にその記述がみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の悪霊の言及

【サタン】より

…イスラムではシャイターンshayṭānという。悪魔・悪霊などと同一視され,その概念は必ずしも一定ではない。サタンは,旧約聖書では神に従属するものとされ,神対サタンという二元論は避けられている。…

※「悪霊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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