迷路(野上弥生子の小説)(読み)めいろ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

迷路(野上弥生子の小説)
めいろ

野上弥生子(やえこ)の長編小説。1936年(昭和11)11月、翌年同月の『中央公論』に発表、この部分は第二次世界大戦後全面改稿されて第1、第2部となる。続稿として49年(昭和24)1月~56年10月まで『世界』に連載発表。48年より56年まで6回にわたって岩波書店刊。のち部立てを除く。昭和10年の東大五月祭から敗戦目前までの、日本ファシズムの激浪下で、昭和初年の左翼運動に身を投じて挫折(ざせつ)し、良心的苦悩する転向者菅野省三(かんのしょうぞう)を主人公とし、彼を取り巻く人々、とくに政財界、貴族ら日本の支配階層に属する人物を多数登場させて、戦争勢力の内部剔抉(てっけつ)に及ぶ、戦時下の日本および日本人のありようを冷静な視点から突っ込んで描いた雄大な構想をもつ大河小説

 昭和10年代史として歴史的意義をもつ代表作。読売文学賞受賞。

渡辺澄子

『『迷路』全3冊(1984・岩波書店)』『『迷路』(岩波文庫・角川文庫)』

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