デジタル大辞泉 「迷路」の意味・読み・例文・類語
めいろ【迷路】[戯曲・書名]



内耳とまったく同じ意味と考えてよいが,迷路が内耳を包んでいる組織をも含んだ総称である点に違いがある。側頭骨の中のいちばん硬い岩様部の中に迷路のような複雑な管腔,およびそれを包んだ硬い骨があることからこの名がついた。迷路は,外装をつくっている骨迷路(迷路骨包)と,その内側に包まれた膜迷路とからなっている。骨迷路内には,ほぼ髄液と同じ成分で,蝸牛導水管で髄膜腔に連なる外リンパ液が含まれている。この液は,聴覚に役立つ蝸牛と,体の振動,平衡に役立つ前庭と,頭の回転などを知覚する半規管とを満たしている。膜迷路は,骨迷路内の外リンパ液のさらに中に,薄い膜でできたもので,内リンパ液といって細胞内液に成分の似た液を含んでいる。膜迷路には蝸牛管,卵形囊,球形囊,三半規管とがあり,それぞれは連なった一つの腔をなしている。ウイルス感染,髄膜炎,中耳炎などで迷路炎が起きると,めまい,吐き気,嘔吐,高度難聴になる。
なお,遊戯としての迷路mazeについては〈数学パズル〉の項の[トポロジーパズル]を,古代・中世ヨーロッパの呪符としての意味を付与された迷路については〈迷宮〉の項を,それぞれ参照されたい。
執筆者:鳥山 稔
野上弥生子の長編小説。〈黒い行列〉〈迷路〉の題で1936-37年に《中央公論》に発表し,第1部,第2部として48年岩波書店刊,第3~6部を49-56年に《世界》に連載,52-56年同書店刊。二・二六事件から太平洋戦争,敗戦へと激動する昭和史を背景に良心の行方を求めて彷徨する青年群像と,戦時下の政財界を重層的に描いた作品。転向者菅野省三は旧藩主阿藤家の史料編纂員となり,西教史の研究に生甲斐を求めるが,召集されて大陸に渡る。そこで旧友木津に再会し,延安に脱走をはかるが,日本兵に狙撃される。省三の回りに,農化学者小田,新聞記者として中国に渡り諜報員となった木津,その先妻せつ,省三にひかれながらブルジョア生活を捨て切れぬ多津枝などが描かれる。他方,能楽“狂”として設定された旧幕臣江島宗通を通して軍閥支配の時代への厳しい批判が展開される。
執筆者:助川 徳是
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
なかなか通り抜けられないようにつくられた道のこと。古代バビロニアの粘土板やギリシア神話などにみられるように、人類とは古いつながりがある。歴史的にみれば迷路にはいろいろな目的があった。いちばん多いのが、宗教とのかかわりである。それは魔除(まよ)けであり、死であり、天国との間の障害でもあった。日本だけでなく、城下町の道路が複雑に入り組んでいるのには、敵がすんなりとは攻め入れないようにという軍事的なねらいがあった。やがて16~17世紀になると、楽しむことを目的とした、いわゆる庭園迷路が、とくにイギリスを中心に発達する。現在でも数十の生け垣迷路が残っている。
日本で1980年代後半に起こった迷路ブームは、スチュアート・ランズボローStuart Landsboroughが、ニュージーランドのワナカという小さな村で始めた商業迷路がきっかけである。彼はいろいろな試行錯誤を重ね、迷路の立体化、チェック・ポイントの設定、仕切り壁の自由変更などで、人間の動きのコントロールのノウハウを得て、1985年(昭和60)に日本に乗り込んだ。日本では、87年には、ランズボロー・メイズという名のもとで20か所、そのほかを含めると百数十か所の迷路施設が商業化されていた。大きいものは、縦・横各90メートルもあり、平均所要時間は1時間前後である。迷路は単なる知的遊技にとどまらず、一種の軽い屋外スポーツとしての意義から、広く支持を受けたが、ブームが去るとこれらの施設は相次いで閉鎖された。
[芦ヶ原伸之]
野上弥生子(やえこ)の長編小説。1936年(昭和11)11月、翌年同月の『中央公論』に発表、この部分は第二次世界大戦後全面改稿されて第1、第2部となる。続稿として49年(昭和24)1月~56年10月まで『世界』に連載発表。48年より56年まで6回にわたって岩波書店刊。のち部立てを除く。昭和10年の東大五月祭から敗戦目前までの、日本ファシズムの激浪下で、昭和初年の左翼運動に身を投じて挫折(ざせつ)し、良心的苦悩する転向者菅野省三(かんのしょうぞう)を主人公とし、彼を取り巻く人々、とくに政財界、貴族ら日本の支配階層に属する人物を多数登場させて、戦争勢力の内部剔抉(てっけつ)に及ぶ、戦時下の日本および日本人のありようを冷静な視点から突っ込んで描いた雄大な構想をもつ大河小説。
昭和10年代史として歴史的意義をもつ代表作。読売文学賞受賞。
[渡辺澄子]
『『迷路』全3冊(1984・岩波書店)』▽『『迷路』(岩波文庫・角川文庫)』
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字通「迷」の項目を見る。
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…数学的な側面を多少でももったパズルを総称して,数学パズルという。ふつうは,題材が数学的であったり,解き方が数学的であったり,解答が数学的であったりするが,ほかにもマッチ棒のパズルや迷路のパズルなど,数学パズルに含まれるものは多い。数学パズルの特徴は,予備知識なしにだれにでも簡単に取り組むことができ,しかも頭のレクリエーションとして,楽しいひとときを思わず過ごすところにある。…
…しかしその遺構は確定できず,むしろそれを象徴する文様が歴史的に意味をもってきた。今日の迷路パズルの起源でもある。 古代の迷宮文様は,クレタ島,クノッソスの宮殿を舞台とする神話を背景として,呪符あるいは護符としての意味をもっていた。…
…1844年文人クラブ〈トンネル〉に入会のころからすでに物語詩の創作を試み,イギリスやスコットランドの詩文学を研究してその影響を受け,《詩集》(1851),《物語詩》(1861)を発表していたが,本格的な作家活動に入ったのは50歳も半ばを過ぎてからであった。最初の長編小説《嵐の前》(1878)を皮切りに,《迷路Irrungen,Wirrungen》(1888),《イェンニー・トライベル夫人》(1892。邦訳《つくられた微笑》),《エフィ・ブリースト》(1895。…
…骨に囲まれた複雑な形をした腔に膜の袋が入っており,この一部にある感覚細胞に内耳神経と呼ばれる第8番目の脳神経が来ている。内耳を包んでいる組織をも含めて,この複雑な構造を迷路という。聴覚に関係する部分は蝸牛(かぎゆう)と呼び,名前のように2回転半巻いている全長約30mmの管である。…
…内耳は刺激を受容する中心的部分で,最も奥深く位置し,進化的にみて最も由来が古く,すべての脊椎動物が例外なく備えるものである。内耳の実質をなすのは〈迷路〉と呼ばれる複雑な囊状の構造で,これは動物のグループによってかなり異なるが,一般的には〈卵形囊〉とそれに付属した半円形の管である〈半規管〉,および〈球形囊〉とそれから伸びた〈蝸牛(かぎゆう)管〉という4部の中空の小囊から成る(ただし下等脊椎動物は蝸牛管をもたない)。卵形囊と球形囊は内耳の中心部をなし,これらをあわせて〈前庭〉という。…
※「迷路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」