デジタル大辞泉
「迷路」の意味・読み・例文・類語
めいろ【迷路】[戯曲・書名]
《原題、〈フランス〉Le Labyrinthe》フランスの劇作家アラバルの戯曲。1961年執筆、1967年初演。
有島武郎の長編小説。米国滞在中の自身の精神的彷徨を素材とする。大正5年(1916)から大正7年(1918)にかけて「首途」「迷路」「暁闇」の三部作として発表、改稿を経て、大正7年6月に刊行。
野上弥生子の長編小説。昭和10年(1935)から終戦までを、ある転向者の青年を主人公に描いた大河小説。昭和11年(1936)に「黒い行列」、昭和12年(1937)に「迷路」として「中央公論」誌に連載。その後、改稿し「迷路」第一部、第二部として昭和23年(1948)刊行。第三部から第六部を昭和24年(1949)から昭和31年(1956)にかけて、「世界」誌に連載。昭和27年(1952)から昭和31年(1956)にかけて刊行。昭和32年(1957)、第9回読売文学賞小説賞受賞。
めい‐ろ【迷路】
1 迷いやすい道。入り込むと迷って出られなくなるような道。「迷路に踏み込む」
2 1を図形化した遊び。
3 内耳の骨迷路とその中にある膜迷路のこと。
[補説]作品名別項。→迷路
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めい‐ろ【迷路】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 迷いやすい道。はいりこむと迷って出られなくなる道。また、そのように作られた道。メーズ。ラビリンス。〔文明本節用集(室町中)〕
- [初出の実例]「一たび愛慾の迷路(メイロ)に入て、無明の業火の熾なるより鬼と化したるも」(出典:読本・雨月物語(1776)青頭巾)
- ② ( ━する ) 道に迷うこと。正しい道がわからなくなること。
- [初出の実例]「仏法の東漸をあきらめざるによりて、いたづらに西天に迷路するなり」(出典:正法眼蔵(1231‐53)行持下)
- [その他の文献]〔白居易‐刑部尚書致仕詩〕
- ③ 動物や人間の行動、特に学習過程を研究する装置の一つ。入口から目標に至る道順の間にいくつかの袋小路があり、誤りを繰り返した後、目標に達する行動が完成するまでの回数や時間によって学習の過程を研究する。
- ④ 内耳のこと。狭義では内耳の蝸牛殻以外の部分をいう。平衡感覚をつかさどる。〔医語類聚(1872)〕
- [ 2 ] 小説。野上彌生子作。昭和一一年(一九三六)から同三一年まで六部に分けて断続的に発表。左翼運動の転向者菅野省三を中心に、敗戦に至るまでの混迷した時代の中での知識人の生き方を描く。
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迷路 (めいろ)
labyrinth
内耳とまったく同じ意味と考えてよいが,迷路が内耳を包んでいる組織をも含んだ総称である点に違いがある。側頭骨の中のいちばん硬い岩様部の中に迷路のような複雑な管腔,およびそれを包んだ硬い骨があることからこの名がついた。迷路は,外装をつくっている骨迷路(迷路骨包)と,その内側に包まれた膜迷路とからなっている。骨迷路内には,ほぼ髄液と同じ成分で,蝸牛導水管で髄膜腔に連なる外リンパ液が含まれている。この液は,聴覚に役立つ蝸牛と,体の振動,平衡に役立つ前庭と,頭の回転などを知覚する半規管とを満たしている。膜迷路は,骨迷路内の外リンパ液のさらに中に,薄い膜でできたもので,内リンパ液といって細胞内液に成分の似た液を含んでいる。膜迷路には蝸牛管,卵形囊,球形囊,三半規管とがあり,それぞれは連なった一つの腔をなしている。ウイルス感染,髄膜炎,中耳炎などで迷路炎が起きると,めまい,吐き気,嘔吐,高度難聴になる。
なお,遊戯としての迷路mazeについては〈数学パズル〉の項の[トポロジーパズル]を,古代・中世ヨーロッパの呪符としての意味を付与された迷路については〈迷宮〉の項を,それぞれ参照されたい。
執筆者:鳥山 稔
迷路 (めいろ)
野上弥生子の長編小説。〈黒い行列〉〈迷路〉の題で1936-37年に《中央公論》に発表し,第1部,第2部として48年岩波書店刊,第3~6部を49-56年に《世界》に連載,52-56年同書店刊。二・二六事件から太平洋戦争,敗戦へと激動する昭和史を背景に良心の行方を求めて彷徨する青年群像と,戦時下の政財界を重層的に描いた作品。転向者菅野省三は旧藩主阿藤家の史料編纂員となり,西教史の研究に生甲斐を求めるが,召集されて大陸に渡る。そこで旧友木津に再会し,延安に脱走をはかるが,日本兵に狙撃される。省三の回りに,農化学者小田,新聞記者として中国に渡り諜報員となった木津,その先妻せつ,省三にひかれながらブルジョア生活を捨て切れぬ多津枝などが描かれる。他方,能楽“狂”として設定された旧幕臣江島宗通を通して軍閥支配の時代への厳しい批判が展開される。
執筆者:助川 徳是
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迷路(通り抜けにくくつくられた道)
めいろ
なかなか通り抜けられないようにつくられた道のこと。古代バビロニアの粘土板やギリシア神話などにみられるように、人類とは古いつながりがある。歴史的にみれば迷路にはいろいろな目的があった。いちばん多いのが、宗教とのかかわりである。それは魔除(まよ)けであり、死であり、天国との間の障害でもあった。日本だけでなく、城下町の道路が複雑に入り組んでいるのには、敵がすんなりとは攻め入れないようにという軍事的なねらいがあった。やがて16~17世紀になると、楽しむことを目的とした、いわゆる庭園迷路が、とくにイギリスを中心に発達する。現在でも数十の生け垣迷路が残っている。
日本で1980年代後半に起こった迷路ブームは、スチュアート・ランズボローStuart Landsboroughが、ニュージーランドのワナカという小さな村で始めた商業迷路がきっかけである。彼はいろいろな試行錯誤を重ね、迷路の立体化、チェック・ポイントの設定、仕切り壁の自由変更などで、人間の動きのコントロールのノウハウを得て、1985年(昭和60)に日本に乗り込んだ。日本では、87年には、ランズボロー・メイズという名のもとで20か所、そのほかを含めると百数十か所の迷路施設が商業化されていた。大きいものは、縦・横各90メートルもあり、平均所要時間は1時間前後である。迷路は単なる知的遊技にとどまらず、一種の軽い屋外スポーツとしての意義から、広く支持を受けたが、ブームが去るとこれらの施設は相次いで閉鎖された。
[芦ヶ原伸之]
迷路(野上弥生子の小説)
めいろ
野上弥生子(やえこ)の長編小説。1936年(昭和11)11月、翌年同月の『中央公論』に発表、この部分は第二次世界大戦後全面改稿されて第1、第2部となる。続稿として49年(昭和24)1月~56年10月まで『世界』に連載発表。48年より56年まで6回にわたって岩波書店刊。のち部立てを除く。昭和10年の東大五月祭から敗戦目前までの、日本ファシズムの激浪下で、昭和初年の左翼運動に身を投じて挫折(ざせつ)し、良心的苦悩する転向者菅野省三(かんのしょうぞう)を主人公とし、彼を取り巻く人々、とくに政財界、貴族ら日本の支配階層に属する人物を多数登場させて、戦争勢力の内部剔抉(てっけつ)に及ぶ、戦時下の日本および日本人のありようを冷静な視点から突っ込んで描いた雄大な構想をもつ大河小説。
昭和10年代史として歴史的意義をもつ代表作。読売文学賞受賞。
[渡辺澄子]
『『迷路』全3冊(1984・岩波書店)』▽『『迷路』(岩波文庫・角川文庫)』
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迷路
めいろ
maze
いろいろな方向に紆余曲折し,ところどころに袋小路のあるパターンで,古くは敵の侵入を防ぐ防衛的な意味で構築されたものらしい。その後,娯楽のため庭園などに造られた (たとえばベルサイユ宮殿) が,現存するものとしてはイギリスのハンプトンコート宮殿の庭にあるものが最も著名である。また,19世紀末から心理学で学習研究の装置として用いられるようになった。目標点の間を袋小路のついた通路でつなぎ,被験体 (おもにねずみ) は,出発点からできるだけ早く,最短距離を経由して目標点に到達することが要求される。迷路にはその大きさ,複雑さ,形状などにさまざまなものがあり,普通目標点に到達する通路が簡単には被験体にわからないように構成されている。
迷路
めいろ
labyrinth
内耳のこと。構造が複雑で理解しがたいことから名づけられた。骨迷路と膜迷路に分けられ,骨迷路は前庭,半規管,蝸牛の3部から成っている。膜迷路は骨迷路の中にある管系で,骨迷路とほぼ同じ形をし,外部に外リンパ,内部に内リンパという液を満たしている。卵形嚢と球形嚢という2個の袋があり,それぞれ一つの平衡斑があって互いに直角をなしている。膜迷路は音刺激および加速度刺激を受容する非常に大切な部分である。
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普及版 字通
「迷路」の読み・字形・画数・意味
【迷路】めいろ
路に迷う。唐・白居易〔刑部尚書致仕〕詩 路、心迥(はる)かにして、因りて佛に向ひ 宦(くわんと)、事了(をは)りて、是(ここ)に車を懸く字通「迷」の項目を見る。
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迷路(心理)【めいろ】
動物または人間の学習過程を研究する装置の一つ。入口,袋小路を含む道路,出口または目標の3部分からなる。被検者は入口から出口または目標へ,空間的・時間的に最短の通路を通って到達することを要求され,到達までの時間,誤りの回数などの減少によって学習効果を評価する。
迷路(医学)【めいろ】
内耳のある部分で,その複雑さからこの名がある。本来の感覚器の膜迷路と,これを入れる骨迷路とがある。
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迷路〔ドラマ〕
韓中合作のテレビドラマ。2007年放映開始(全22話)。出演は、イ・ジョンウォン、ファン・シネ、タウ・フェミンほか。メロドラマ。
迷路〔小説〕
池波正太郎の長編時代小説。1984年刊行。「鬼平犯科帳」シリーズ。
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世界大百科事典(旧版)内の迷路の言及
【数学パズル】より
…数学的な側面を多少でももったパズルを総称して,数学パズルという。ふつうは,題材が数学的であったり,解き方が数学的であったり,解答が数学的であったりするが,ほかにもマッチ棒のパズルや迷路のパズルなど,数学パズルに含まれるものは多い。数学パズルの特徴は,予備知識なしにだれにでも簡単に取り組むことができ,しかも頭のレクリエーションとして,楽しいひとときを思わず過ごすところにある。…
【迷宮】より
…しかしその遺構は確定できず,むしろそれを象徴する文様が歴史的に意味をもってきた。今日の迷路パズルの起源でもある。 古代の迷宮文様は,クレタ島,[クノッソス]の宮殿を舞台とする神話を背景として,呪符あるいは護符としての意味をもっていた。…
【フォンターネ】より
…1844年文人クラブ〈トンネル〉に入会のころからすでに物語詩の創作を試み,イギリスやスコットランドの詩文学を研究してその影響を受け,《詩集》(1851),《物語詩》(1861)を発表していたが,本格的な作家活動に入ったのは50歳も半ばを過ぎてからであった。最初の長編小説《嵐の前》(1878)を皮切りに,《迷路Irrungen,Wirrungen》(1888),《イェンニー・トライベル夫人》(1892。邦訳《つくられた微笑》),《エフィ・ブリースト》(1895。…
【内耳】より
…骨に囲まれた複雑な形をした腔に膜の袋が入っており,この一部にある感覚細胞に内耳神経と呼ばれる第8番目の脳神経が来ている。内耳を包んでいる組織をも含めて,この複雑な構造を[迷路]という。聴覚に関係する部分は蝸牛(かぎゆう)と呼び,名前のように2回転半巻いている全長約30mmの管である。…
【耳】より
…内耳は刺激を受容する中心的部分で,最も奥深く位置し,進化的にみて最も由来が古く,すべての脊椎動物が例外なく備えるものである。内耳の実質をなすのは〈[迷路]〉と呼ばれる複雑な囊状の構造で,これは動物のグループによってかなり異なるが,一般的には〈卵形囊〉とそれに付属した半円形の管である〈半規管〉,および〈球形囊〉とそれから伸びた〈蝸牛(かぎゆう)管〉という4部の中空の小囊から成る(ただし下等脊椎動物は蝸牛管をもたない)。卵形囊と球形囊は内耳の中心部をなし,これらをあわせて〈前庭〉という。…
※「迷路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」