日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸ハロゲン化物」の意味・わかりやすい解説
酸ハロゲン化物
さんはろげんかぶつ
acid halide
カルボン酸RCOOH、スルホン酸RSO2OH、スルフィン酸RSOOH、スルフェン酸RSOH、ホスホン酸RP(O)(OH)2のヒドロキシ基-OHをハロゲン原子X(F、Cl、Br、I)で置き換えた化合物をいう。カルボン酸のハロゲン化物RCOXをハロゲン化アシル(正しくはハロゲン化アルカノイル)といい以下、ハロゲン化スルホニルRSO2X、ハロゲン化スルフィニルRSOX、ハロゲン化スルフェニルRSX、ハロゲン化ホスホニルRP(O)X2とよぶ。圧倒的によく用いられるのはハロゲン化アシルである。
[谷利陸平]
ハロゲン化アシル
一般に刺激臭のある無色の液体または固体である。反応性の強さ、入手しやすさ、取扱いやすさなどからもっとも有用なのは塩化アシルRCOClであり、ついで臭化アシルRCOBrが用いられる。フッ化アシル、ヨウ化アシルはあまり重要でない。塩化アシルはカルボン酸に塩化チオニルなどの塩素化剤を反応させると合成できる。臭化アシルはカルボン酸に三臭化リンを作用させると得られる。いずれもエーテルには溶けるが、水により分解され、もとのカルボン酸と塩化水素、臭化水素になる。カルボニル基炭素原子上での反応により、ハロゲン原子が他の原子団と交換されやすく、種々の有機化合物にアシル基RCO-を導入するアシル化剤として有機合成反応上有用である。
臭化アシルは、対応する塩化アシルより反応性はすこし低い。塩化アシルにフッ化アルカリ、ヨウ化アルカリなどを作用させるとフッ化アシル、ヨウ化アシルが得られる。
[谷利陸平]
その他の酸ハロゲン化物
合成法、性質などは全般的にハロゲン化アシルに似ている。ハロゲン化スルホニルは種々の有機化合物にスルホニル基RSO2-を導入する試薬として有機合成反応上用いられている。
[谷利陸平]
『大饗茂著『有機硫黄化学 合成反応編』(1982・化学同人)』▽『L・G・ウエイド・Jr著、大槻哲夫・小倉克之・尾島十郎・細見彰・町口孝久・山本嘉則訳『ウエイド有機化学3』(1989・丸善)』▽『日本化学会編『第4版実験化学講座22/有機合成4 酸・アミノ酸・ペプチド』(1992・丸善)』