丸善(読み)まるぜん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「丸善」の意味・わかりやすい解説

丸善(株)
まるぜん

1869年(明治2)福沢諭吉(ゆきち)門下の医師早矢仕有的(はやしゆうてき)が創業した洋書輸入を主とした書籍文具・洋品雑貨販売業。当初は横浜に丸屋(まるや)商社を結成、翌70年に東京・日本橋に東京支店(現日本橋店)を、続いて大阪、京都、名古屋に支店を設け、和洋書籍、洋品、薬品の販売を始めた。明治初期の輸入書は教科書や啓蒙(けいもう)書、ブリタニカやエベリマンなど事典叢書(そうしょ)であった。書籍の輸入と同時に出版にも力を入れ、70年の『袖珍(しゅうちん)薬説』を嚆矢(こうし)とし、ヘルマン・リッテルの『化学日記』『物理日記』や、1925年(大正14)には『理科年表』を発行するなど理工学分野の出版に特色がある。1897年創刊の『学の燈(まなびのともしび)』(現『学鐙(がくとう)』)は輸入書の紹介、欧米の文具・化粧品の広告などで評判であった。系列の銀行は頓挫(とんざ)(1884)したが、洋書の輸入を中心に、アテナインキなど事務用品の開発に努め、明治・大正期と業務は順当に発展した。

 第二次世界大戦中は洋書の輸入が絶え、戦災によって全国の支店が烏有(うゆう)に帰するなどの困難に遭遇した。第二次世界大戦後、1950年(昭和25)民間貿易が自由となり、いち早く洋書の輸入を開始、52年には現社屋が落成、文具・洋品部は再編された。63年、第1回『せかいの絵本展』を開催、人々の絵本への関心を高めた。77年にはMASISセンターを設置してDIALOGシステムによる学術文献情報のデータベースサービスを開始。84年、図書・資料情報管理システムCALISを完成。1999年(平成11)には、ナレッジワーカーKnowledge Workerという学術文献情報ナビゲーション・システムを公開した。同年、出版事業部は創立130周年の企画『化学物質毒性ハンドブック』『産業安全総覧』などの新刊159点を発行、多数の重版書を加え576点の出版活動を行った。そのほかに、CD-ROM、DVD-ROM、インターネット利用などによる電子出版事業や、国立国会図書館所蔵の明治期刊行図書のマイクロフィルム化、CD-ROM化による復刻出版など資料保存的な事業を進めている。2004年には東京・丸の内に丸の内本店が落成。2004年の資本金は128億2778万円、全国33店舗、従業員数1164人、売上高1077億円。

[大久保久雄]

『丸善編・刊『丸善百年史』全3冊(1980、81)』『木村毅著『丸善外史』(1969・丸善)』『丸善編・刊『学鐙』(月刊PR誌)』

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改訂新版 世界大百科事典 「丸善」の意味・わかりやすい解説

丸善[株] (まるぜん)

和洋書籍,文具,事務器具,洋品,雑貨の販売,出版業の老舗(しにせ)。本店,東京都日本橋。早矢仕有的(はやしゆうてき)が,貿易の振興こそ日本の国力を充実するゆえんであるとして,1869年(明治2)横浜に創業した輸入業丸屋商社をその前身とする。屋号の〈丸屋〉は,世界を相手に商売するという意味で,地球になぞらえて命名したものである。翌70年に東京日本橋の現在地に支店を開設,のち本店とした。71年大阪,72年京都に支店を開設,80年には責任有限会社丸善商社に改組・改称し,和洋書籍,薬品,舶来雑貨の販売,裁縫を営業課目とした。この間,丸屋銀行,貿易商会などを設立,事業を拡張したが,84年経済的変動により丸屋銀行が破産したため,事業を縮小,早矢仕も退陣した。93年丸善株式会社とするとともに,経営の立直しを図り,日清・日露戦争後,社会の好況にも助けられて社業は躍進的に発展した。1902年には《ブリタニカ百科事典》第9版の予約月賦販売に成功,日本における書籍割賦販売の先鞭をつけ,以降,明治年間に11点の各種外国語事典の予約販売を行った。一方,早矢仕時代に始められた出版部門は,《新体詩抄》(1882),《百科全書》(1883)などを刊行,97年にはPR誌としては最も古い歴史をもつ《学鐙》の前身《学の灯》を創刊している。その後は自然科学,工学分野に重点をおき,各種学会・協会の学術書や雑誌の刊行・発売に定評を得ている。関東大震災で社屋を焼失したが,社業は充実発展の途をたどり,第2次大戦後は全国主要都市のほか,ニューヨーク,シンガポールにも支店,出張所を設け,事業を拡大している。取扱品のなかで有名なものに,イギリスから1914年以来直輸入しているバーバリー・コートのほか,17年から発売を始めたアテナインキなどがある。96年現在,資本金121億6800万円,従業員数2100名余。
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百科事典マイペディア 「丸善」の意味・わかりやすい解説

丸善[株]【まるぜん】

和洋書籍,文具などの販売と出版業を営む老舗。特に洋書の輸入販売で知られる。1869年福沢諭吉門下の早矢仕有的(はやしゆうてき)が横浜に丸屋商社を創立,洋書・薬品などの輸入・販売を行ったのが始まり。1878年には日本で初めてインクを製造,1884年には万年筆を輸入している。事業の発展とともに1880年本社を東京に移し,丸善商社と改称,1893年現社設立。1897年,現在の《学鐙》の前身《学の灯》を創刊。内装建築も手がける。東京日本橋の本店のほか約50の支店がある。2010年TRCとの経営統合により持ち株会社丸善CHIホールディングスを設立。丸善は上場廃止。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「丸善」の意味・わかりやすい解説

丸善
まるぜん

内外図書,雑誌,文具,事務機械,洋品雑貨の販売および輸出入のほか出版,教育機器の製造,不動産業を営む会社。明治2 (1869) 年福沢諭吉の門人早矢仕有的 (はやしゆうてき) が横浜に設立した丸屋商社がその前身で,1880年東京に本社を移し,94年現社名に改称。当初から多角経営を目指していたが,なかでも洋書の輸入により日本の学術研究の進歩に貢献した。事業構成は書籍 53%,文具・OA機器 33%,洋品 10%,その他4%。年間売上高 1323億 2700万円,資本金 121億 6800万円,従業員数 2137名 (1996) 。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「丸善」の解説

丸善

正式社名「丸善株式会社」。英文社名「Maruzen Company, Limited.」。小売業。明治2年(1869)前身の「丸屋商社」創業。同13年(1880)「責任有限丸善商社」設立。同26年(1893)設立。本社は東京都港区海岸。書籍・事務機器などの販売会社。輸入書籍や学術機関向け専門書に実績。平成22年(2010)図書館流通センターと経営統合、共同持株会社CHIグループの完全子会社化にともない上場廃止。東京証券取引所第1部旧上場。

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世界大百科事典(旧版)内の丸善の言及

【会社】より

…第一銀行から第百五十三銀行に至る国立銀行は株式会社としての実質を備えていた。また福沢諭吉の指導で1869年1月に設立された丸屋商社(のちの丸善株式会社)は,実質的に合資会社であった。国立銀行条例,取引所条例(1887),私設鉄道条例(同)などの特別法のほかは統一的な会社法を欠いたままに,会社の設立は活発となり,87年には会社数が2000社を上回り,翌年には資本金合計が1億円を超した。…

【学鐙】より

丸善発行の読書雑誌。現存のこの種のものとしてはもっとも古い。…

【高層建築】より

…三井銀行本店(1903。3階)や丸善(1909。3階)は,鉄骨と煉瓦壁を組み合わせた初期の鉄骨造建築であった。…

【早矢仕有的】より

…丸善の創業者。美濃国(岐阜県)笹賀村に生まれる。…

※「丸善」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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