日本大百科全書(ニッポニカ) 「雇用保蔵」の意味・わかりやすい解説
雇用保蔵
こようほぞう
企業の常用雇用者数が、生産に最適な雇用者数を超えた状態。企業は景気の変動に応じて生産を調整する際、労働投入量を調整する。ドライにレイオフ(解雇)して投入量を調整するアメリカと違って、日本では一般に雇用者数ではなく、労働時間や労働密度を加減することで雇用調整している。不況時に労働時間を短くしたり労働密度を下げて生産調整をするとき、結局は人が余った状態になっているわけで、この状態を「雇用保蔵」という。目先の生産との兼ね合いでいえば過剰雇用とも失業予備軍ともみられなくもない。しかし需要が活況を呈し操業度が上がる局面では、保蔵していた雇用は単なる即戦力以上の役割を担い、もちろん雇用保蔵は解消に向かう。2008年の世界的金融危機「リーマン・ショック」時に、多くの企業が大量の非正規雇用者との契約を打ち切ったが、正規雇用者を解雇した例は少ない。これは長期的視点から優秀な人材を意図的に抱え込んでいる側面があり、日本的経営の特徴の一つといえる。
[原 正輝]