電波レンズ(読み)でんぱれんず

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電波レンズ」の意味・わかりやすい解説

電波レンズ
でんぱれんず

電磁ホーンの開口面に備え、放射電波位相をそろえるもの。電磁ホーンの長さを一定にして開口角を広げれば、開口面は大きくなるが、開口面上の電界の位相は、中心から離れるにつれて遅れ位相となり、同相ではなくなる。したがって、正面方向では、開口面上の各点からの放射電界が同相で加わらないので弱くなり、側方で強くなる場合がある。この欠点を除くため、開口内部に損失の少ない誘電体を置き、開口面上で電界の位相が同相となるようにその形状を決めれば、正面方向では同相で加わり、鋭い放射ビームが得られる。このときの誘電体の形状は回転双曲面となる。これを誘電体電波レンズあるいは遅相形電波レンズ(誘電体内では電波の速度が遅くなる)という。

 誘電体のかわりに、導波管の中の電波の位相速度が真空中よりも速くなることを利用した進相形の電波レンズがある。これは、電界と平行な導体板を半波長以下の間隔で平行に並べ、その断面を回転楕円(だえん)面としたもので、導波管形電波レンズともいう。電磁ホーン内の電波の等位相面は球面状になっているから、中心から遠いところでは進行距離が長く、位相が遅れるので、レンズの中を通すことによって位相を進ませ、開口面上で同相になるようにしたものである。

 誘電体レンズは、高い周波数のマイクロ波帯になると誘電体損失が大きく、また、導波管形のレンズは周波数帯域が狭く、かつ構造も複雑になり、現在はあまり使われていない。

 誘電体を用いるかわりに導体板を平行に並べ、電波の伝搬距離を強制的に長くし、これによって中央部の位相を遅らせ、開口面上で同相になるように構成したものをパスレングスレンズpath length lensといい、断面の形状は誘電体レンズと同じく、回転双曲線である。パスレングスレンズアンテナは、日本電信電話公社(現日本電信電話会社)が最初に東京―大阪間のマイクロ波通信回線用のアンテナとして用いたが、現在はほとんど用いられていない。

[関口利男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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