デジタル大辞泉 「電波」の意味・読み・例文・類語
でん‐ぱ【電波】
[補説]日本の電波法では、300万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう。
[類語]波動・周波・高周波・低周波・音波・超音波・光波・電磁波・長波・中波・短波・超短波・極超短波・マイクロウェーブ・マイクロ波
翻訳|radio wave
電磁波を応用分野では主として電波と呼ぶ。電磁波は物理学の対象としての電波の呼称である。一般に物理学上では,いわゆる電波だけでなく,光やX線,γ線も電磁波に含まれる。これに対して電波といったときは,周波数300万MHz程度のものまでをいう。
電波の利用に関して,電波の公平かつ能率的な利用を確保するために電波法が制定されているが,電波法では,第2条において〈電波とは300万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう〉と電波を定義している。しかし,これは電波の定義というよりも,電波法の適用範囲を示したもので,電波そのものは,さらに高い周波数も含んだ一般的な概念と考えられる。
急激な電磁界の変動が生ずるとこれが波形で遠方に伝搬する。これが電波である。電波の存在を初めて実証したのはH.R.ヘルツで,1888年のことである。
ヘルツの実験は各国の物理学者により追試が盛んに行われたという。しかし,電波応用の歴史は,発明家G.マルコーニによって開かれた。マルコーニは20歳のとき,ヘルツの実験を知り,コイルやコヒーラー(鉱石検波管の一種)を用いて実験を行い,95年には,10m離れたところから,電波でベルを鳴らすような装置を作ることに成功したという。その後,彼は96年に母の祖国のイギリスに特許を申請し,97年にはマルコーニ無線電信会社をイギリスで設立し,1901年には早くも大西洋横断の無線電信を行っている。また15年にはアメリカとフランスの間で無線電話の実験が行われている。一方,1894年にはマルコーニとはまったく独立してロシアのA.S.ポポフも北極海で操業する漁船との通信を確保するために同様に無線通信の実験を行い,ソ連ではポポフはラジオの父とされている。日本でも,97年にはマルコーニの無線通信の実験に刺激されて,電気試験所で1マイルの距離の無線通信の実験に成功している。この研究はのちの1905年の日本海海戦の信濃丸の通報に大いに役だっている。
他方,1904年には,イギリスのJ.A.フレミングにより二極真空管が,06年にはアメリカのL.デ・フォレストにより三極真空管が発明され,これらの電子デバイスの発明に助けられて,無線通信は急速に発展していった。
電波は通信に利用されただけではない。07年にはベリニ・トシBellini-Tosiによって電波方向探知方式が発明されている。これは現在,電波の大きな利用分野である電波による航行援助方式の始まりと考えられる。
また放送も電波の大きな利用分野である。20年ころより,ラジオ放送はアメリカやイギリスの各都市で始められ,急速に全世界に広がっていった。さらに25年にはイギリスのJ.L.ベアードがテレビの実験に成功し,26年にはイギリスでテレビの公開実験が行われ,また同じ年に八木秀次,宇田新太郎により八木=宇田アンテナが発明されるなど,今日のテレビ放送の基礎が築かれた。このように電波は,われわれの社会や生活を豊かにするのに大いに貢献している。しかしこのように直接にわれわれに利便を与えるだけでなく,科学の進歩,とくに宇宙の神秘の解明にも大いに役だっている。すなわち1923年にはイギリスのE.V.アップルトンによって,電離層の存在が実証され,電波はこの電離層と大地の間で反射されながら,遠方まで伝わることが明らかにされたのである。これは電波を用いた宇宙科学の先駆といえる。その後,電波天文学やロケット観測などに電波はなくてはならないものとなっている。このように無線通信のみならず,ラジオ・テレビ放送,航行援助,宇宙科学など,現在の電波の利用分野はきわめて広い。
また誘電体に電波をあてると,誘電体損によって誘電体が加熱される現象がある。この現象はビニル加工や合成木材の乾燥のほか,調理用電子レンジなどで広く利用されている。
国際電気通信条約では,電波を周波数帯によって表1のように分類している。これとは別に,長波から超短波まで表2のように分類することもある。なお,マイクロ波あるいは高周波という名称は慣用語であって,使用目的によって周波数帯が異なる。
ヘルツは誘導線輪を用いて電流の断続によって瞬間的に高電圧を発生し,高電圧による火花放電によって電波を発生させた。最近はトランジスター,真空管などの増幅素子を用いて正帰還回路を作り,高周波振動を発生させ,この高周波のエネルギーをアンテナに導き,空間に電波を放射させるのがふつうである。また電波の存在は,アンテナに受信される電波を増幅し,これをダイオードで検波することによって調べることができる。この回路を検波器という。
電波はその伝わり方によって,直接波,反射波,屈折波,回折波,地表波,散乱波などに分類される。また伝わる空間の媒質によって,地上波,対流圏波,電離層波に分類されることもある。実際には電波の伝わり方は周波数によって大きく異なる。一般に長波・中波帯では地上波が主体で,これに夜間に電離層波が加わる。この周波数帯の特徴はとくに小高い山や建物の裏側にまで容易に回折によって回り込むことである。一方,短波帯は電離層波が主体で,電離層で反射されて,遠方にまで伝搬するのが特徴である。これに対して,30MHz以上すなわち超短波以上の周波数帯では,電波はしだいに光の性質に近づき,地上波が主体で,しかも到達範囲も見通し範囲内に限られるようになってくる。さらにミリ波以上となると,その性質は,ほとんど光に似かよってきて,しかも霧や降雨による減衰が大きくなる。
次に各周波数帯の利用状況について述べよう。(1)VLF帯 この周波数帯は帯域幅が限られているので,電波としては無線通信よりも航法援助や標準周波数などに利用されている。またレール間,あるいはループに電流を流して,列車や自動車の存在を探知したり,これらの移動体との情報のやり取りに広く利用されている。(2)LF帯 この帯域もほぼVLF帯と同様の利用のされ方をしている。(3)MF帯 MF帯のうち535kHzから1605kHzは放送業務として標準放送に利用されている。535kHz以下は航行援助や海上移動無線などに,1605kHzから上はロランなどの航行援助のほか,移動無線などに利用されている。(4)HF帯 この帯域は短波帯と呼ばれ,電離層と大地の間で反射を繰り返し,地球表面に沿って比較的遠方までの通信が確保できるのが特徴である。伝搬状況は電離層の影響を受けて不安定であるが,固定通信,移動通信,短波通信,標準周波数,アマチュア無線,宇宙科学などに広く利用されている。(5)VHF帯 この周波数では,電波はだんだん光の性質に近づき,山や建物の裏への回り込みも微弱になってくる。電離層で反射されることもなくなり,到達範囲も主として同一の平野や盆地部などに限られてくる。固定通信,移動通信,テレビ放送(80~108MHz,170~222MHz),航行援助(マーカービーコン),宇宙科学,アマチュア無線などに広く利用される。(6)UHF帯 UHF帯となると,電波の性質はいっそう光に近づく。ちょっとした建物の裏側でも電波は極度に減衰する。固定無線,移動無線,UHFテレビ(470~770MHz),航行援助,惑星探査機などに同じく広く利用されている。(7)SHF帯 SHF帯となると,電波の性質は光にきわめて近づき,見通し範囲しか電波は通らなくなる。したがって移動無線としてよりもおもに固定無線に利用される。このほか,レーダー,航行援助,衛星通信,宇宙科学などに用いられ,またテレビ放送への利用も検討されている。(8)EHF帯 EHF帯は主として今後にその利用が残されている。
電波は無線通信の媒体として,また情報や思想を伝える放送の媒体として,さらに船舶や航空機の航行を援助し,安定を確保する手段として,非常に重要な働きをしている。しかし電波は共通の空間内を伝わるので,混信を防止するために地域別あるいは周波数別に特別の監理が必要である。そのための基本法が電波法であり,総務省が電波管理の業務を行っている。また電波の利用が各国でばらばらになされるならば,これらの利用もその国内にとどまり,十分にその目的を達することができない。とくに電波は国境を越えて自由に他国にまで伝わるので,互いに妨害し合うことさえ生ずる。このため電波の利用に関しては,国内的には電波法による取決めがあるが,国際的な取決めも必要である。おもな国際的取決めとしては,電気通信については国際電気通信条約,航海の安全のためには海上における人命の安全のための国際条約がある。また航空機に関しても国際民間航空条約の中に,航行援助や無線通信設備の取決めがある。
執筆者:宮川 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電荷をもった物体を高速で振動させたとき、周囲の電場や磁場が影響を受けて波のように変化する現象。導体でつくられたコイルやアンテナに高周波電流を加えたとき、周囲に放出される電磁的な波動エネルギー。電場の変化と磁場の変化はつねに同位相に直交して生じ、一方だけの電波や磁波は存在しないが、一般に総合して電波とよぶ。
電波は応用分野での呼び名で、物理学的には電磁波という。電磁波は赤外線、可視光線、紫外線、さらにX線やγ(ガンマ)線までも含むから、電磁波のうち、それらを含まない部分を電波と考えることもできる。電波の特性は、速度、周波数、波長の3要素によって特定される。真空中の電波の速度は光速と同じ毎秒29万9792キロメートルと一定であることから、電波は周波数または波長の一方によって特定できる。
電磁波は、1864年にイギリス人J・C・マクスウェルが数学的解析によりその存在を予言し、1888年にドイツ人H・R・ヘルツが火花放電により存在を証明した。1901年にはイタリア人マルコーニが大西洋を横断する無線通信の実験に成功した。
電波は通信や放送など、あらゆる用途に使用され、文明の発展に深くかかわっている。しかしながら、その電波が伝播(でんぱ)する空間は地球の周囲に一つしか存在しない。このことが電波を「有限な資源」とよぶゆえんである。電波を使用することは、人類共有のたった一つの空間を使用することであるから、グローバルな倫理的・技術的規制が必要で、なんぴとも、この規制に反して他の通信に妨害を与えてはならない。このことを国際的に管理するのが国際電気通信連合(ITU)であり、本部をスイスのジュネーブに置く。各国は、ITUに加盟し、ITU条約、ITU憲章を遵守する義務を負う。日本の電波法および関係する総務省令は、ITU加盟国として、電波の利用の公平かつ能率的な利用を国内的に、また国際的に確保するための指針を示すものである。
ITU憲章および電波法では、電波を300万メガヘルツ以下の電磁波と定めている。これより高い周波数領域は、遠赤外線の領域に近づき、電波として送受信するのが実質的に困難な領域となる。法が規制するのは、あくまでも電波として使い得る範囲にある周波数帯であり、強度についても規定のレベル以下のものについては、規制の範囲には入らない。規制の対象とされる強度は、たとえば、その電波の強度を、送信設備から3メートル離れた位置で測定したときの電界強度が毎メートル500マイクロボルト以上(322メガヘルツ以下の周波数のとき)となっている。また、人工的な導波路である同軸ケーブルや、導波管の内部を通しての電磁波の伝播を電波として規制はしない。
電波を使用するときは、総務大臣に対して無線局の免許を申請して、無線局の種別について免許を受けなくてはならない。その無線局を運用するためには、国家試験に合格し、その無線局の無線設備の運用が許される資格をもつ、無線通信士または無線技術士を運用時間に応じて配置しなくてはならない。
免許を要しない無線局は、以下の三つとなっている。(1)発射する電波が著しく微弱な無線局。(2)市民ラジオの無線局(26.9メガ~27.2メガヘルツ、空中線電力0.5ワット以下で、総務省令に定めるもの)。(3)空中線電力1ワット以下、自動的に呼出し符号または名称を送受する機能その他総務省令で定める機能を有することにより他の無線局に妨害を与えないように運用することができるもので、かつ適合表示無線設備のみを使用するもの。
[石島 巖]
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…これを電磁波という。電磁波はその波長によって,一般に波長がmm程度以上のものを電波,それより短く1μm程度までを赤外線,0.7μmから0.3μm程度までを可視光,さらに短く数nmまでを紫外線,若干重複して10nmから1pmの範囲をX線,10pmより波長の短い電磁波をγ線と呼んでいる。重複している部分は,電磁波を発生するメカニズムに応じて呼称を変えているのがふつうで,また電波を電磁波と同義に用いることも多い。…
※「電波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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