改訂新版 世界大百科事典 「魚問屋仕込制度」の意味・わかりやすい解説
魚問屋仕込制度 (うおどんやしこみせいど)
漁業生産に必要な資金の一部または大部分を魚問屋が生産者に前貸し,そのかわり漁獲物の一部または全部を安く買い取る制度。魚問屋仕入制度ともいう。漁業生産が発達して魚問屋が多くなった江戸時代中期から明治期において最も広くみられたが,この制度の下では漁業生産者は自己の生産物販売の自由を失い,また漁業生産の死命を制せられるような強い支配をうけ,それによって経営の剰余部分を手もとにほとんど残しえないほどの収奪をうけた。この制度が生まれたのは,漁業生産のためには相当額の資金を必要とする場合が少なくなかったのに,生産者に蓄積のない場合が多かったことによる。また魚問屋数の増加にともない問屋相互間の荷引き競争が激化して,個々の問屋は自己の魚荷を確保するための措置として生産者に仕込みをせざるをえない事情もあった。その後漁業生産や流通の近代化が進むにつれて消滅の方向へと向かった。
執筆者:二野瓶 徳夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報