B型肝炎ウイルスキャリアの治療

六訂版 家庭医学大全科 の解説

B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアの治療
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

 HBVキャリアでは症例によって臨床経過が大きく異なります。多くのキャリアでは自覚症状がないままに、自然経過でHBe抗原陽性/HBe抗体陰性からHBe抗原陰性/HBe抗体陽性へと変換し(HBe抗原のセロコンバージョン)、その後は長期(ほぼ一生)にわたりウイルス増殖が抑制され、肝障害も再燃することなく経過します。したがって、このような症例では特別な治療を必要としません。

 一方、一部のキャリアではALT値異常が長期間持続し、慢性肝炎の状態となり、放置すると肝線維化(かんせんいか)が徐々に進行し、最終的には肝硬変(かんこうへん)へ進展しますので、それを防ぐために治療が必要になります。治療が必要か、必要ならどういった治療が適しているかは、患者さんの年齢およびウイルスマーカーの推移を含めた経時的な血液検査、また場合によっては肝生検(せいけん)などにより肝炎の進展段階を総合的に診断することが重要です。

 HBe抗原陽性例では肝臓でのウイルス増殖力が強く、血液中に多量のウイルスが存在していますが、血清ALT値が正常範囲で推移する場合には無症候性(むしょうこうせい)キャリアと考えられますので、治療は行わずに定期的に経過観察します。

 HBe抗原陽性で血清ALT値が異常変動する場合には、経時的なウイルス量の変化やHBe抗原量/HBe抗体価の推移をみて適切な治療を行います。とくに若年症例では、一定期間の肝炎活動期をへて自然経過でHBe抗原がセロコンバージョンし、ウイルス増殖が低下する可能性もあるため、抗ウイルス治療は行わずに経過をみるか、あるいは治療期間が限定されるIFN治療を行います。

 一方、ある程度の年齢(30~40歳)になっても肝炎が沈静化する傾向がみられない場合や、肝線維化の進行例では核酸アナログ治療が適応になります。

 HBe抗原陰性でHBe抗体陽性の症例では、多くの場合、ウイルスの増殖力は弱く血液中には少量のウイルスしか存在せず、肝炎も沈静化した状態(血清ALT値が正常範囲)が続きます。この場合には特別な治療は必要ありません。しかし、一部には血液中のウイルス量が依然として多く認められ、肝炎が持続する場合があります(e抗原陰性慢性肝炎)。

 この場合、血清ALT値は変動することが多く、ある時は正常であっても定期的に検査すると時々異常になるような症例もあります。とくにHBV DNA量が104~105コピー/ml以上の症例では、定期的な血液検査を行い、ALT値が異常を示す場合には肝線維化の程度などを考慮したうえで、抗ウイルス治療を考慮します。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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