化学辞典 第2版 「V中心」の解説
V中心
ブイチュウシン
V center
色中心のうちの正孔捕獲中心の総称.主として紫外域(U.V.)に吸収帯をもつので,V中心と名づけられた.ESR(電子スピン共鳴)の研究から,その構造が確定しているのは Vk とH中心である.アルカリハライド結晶において,Vk 中心は隣り合う2個のハライドイオン (X-)2 に共有された1個の正孔からなり,X2- 分子をつくっている.〈110〉方向の偏光に対して選択吸収を示し分子軸を回転するので,それを利用して結晶の一定方向に分子軸をそろえることができる.Vk 中心が自由電子をとらえることによって緩和励起子がつくられ,その状態からの発光として,結晶の固有発光が見られる.H中心は,格子間位置に押し込められた中性のハロゲン原子であり,分子構造としては〈110〉方向に分子軸をもつ X43- の形をもっている.放射線によって最初にできる色中心は,F中心とH中心の対である.Vk,H中心ともに低温でのみ安定である.ほかのV中心のある種のものは,ハロゲン蒸気中での加熱によってもつくられるが,ESR吸収を示さないため,分子構造の決定が遅れている.V中心そのものの発光は観測されていない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報