正孔(読み)セイコウ

デジタル大辞泉 「正孔」の意味・読み・例文・類語

せい‐こう【正孔】

ゲルマニウムシリコンなどの半導体結晶において、結晶格子上の電子が抜けてできた空孔。負の電荷をもっていた電子が抜けたため、正の電荷をもつ粒子のように振る舞い、電気伝導担い手となる。ポジティブホール。ホール。

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精選版 日本国語大辞典 「正孔」の意味・読み・例文・類語

せい‐こう【正孔】

  1. 〘 名詞 〙 結晶の中に、原子価電子が欠けてできた孔(あな)。正の電荷と正の質量をもつ粒子のように振舞い、電気伝導の荷い手(キャリア)となる。ホール。
    1. [初出の実例]「半導体内での電子や正孔の移動を利用するほかはなかった」(出典:技術革新を読む目(1981)〈星野芳郎〉二)

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百科事典マイペディア 「正孔」の意味・わかりやすい解説

正孔【せいこう】

半導体内部で共有結合にあずかる電子が抜けている所があると,これに電場をかけたとき隣の共有結合から電子が移動して穴をみたし,それによって生じた穴にはもう一つ隣の共有結合から電子が移動するというふうに,電子が次々とリレー式に移動するが,これは逆に電子が移動しないで正電気をもった穴が電子と逆方向に移動すると考えることができる。この穴を正孔またはホールといい,これによって正電気が運ばれ,半導体内に電気伝導が起こることになる。真性半導体では絶対0度以上の温度では熱エネルギーにより少数の電子が共有結合から脱出してあとに正孔が残り,自由電子と正孔の両方により電気伝導を生ずる。また不純物半導体ではケイ素やゲルマニウムに少量加えた5価の原子リンヒ素アンチモン等)により共有結合にあずかる電子に不足を生じ,正孔が発生し正電気が運搬される(p型半導体)。金属電子論では正孔は充満帯から電子が抜けたあとの穴と解される。
→関連項目キャリア原子力電池p型半導体ホール効果

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改訂新版 世界大百科事典 「正孔」の意味・わかりやすい解説

正孔 (せいこう)
positive hole

絶縁体は導体と同程度の密度の電子を含むにもかかわらず電流を通さない。絶縁体においては,そのエネルギー帯がからっぽであるか,あるいは電子によって完全に満たされているからである。後者のいわゆる充満帯の場合,パウリの原理のため,いわば満員であって,電子は身動きできない。しかし充満帯から若干の電子が取り去られると,その抜けた孔を通して電子の移動が可能となる。この場合,電子そのものより,むしろ孔の運動に着目するほうが一般に便利である。充満帯は満たされているとき全体として中性なので,この孔は正電荷をもつもののようにふるまう。そこでこれを正孔と呼ぶ。ホールということもある。正孔は絶縁体中を電荷を別にすれば通常の伝導電子とまったく同じように運動し,電導性に寄与する。ただしホール効果や熱起電力符号は伝導電子の場合と一般に逆になる。なお,正孔の概念は,バンド理論バンド構造)の成り立たない液体や非晶質の場合にも使われる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「正孔」の意味・わかりやすい解説

正孔
せいこう
positive hole

充満帯の電子が1個抜けたとき,その抜け穴は電子の電荷と等量で符号が反対の正の電荷をもつ1個の粒子とみなせる。これを正孔またはホールという。正孔は伝導電子と同様に結晶中を動いて電気伝導担体となる。正孔は,真性半導体では充満帯 (価電子帯) の電子が伝導帯に上がるときに生じ,伝導電子とともに担体となる。不純物半導体では充満帯の電子がアクセプタ準位に上がるときに正孔が生じ,p型半導体になる。

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化学辞典 第2版 「正孔」の解説

正孔
セイコウ
positive hole

ホールともいう.半導体や絶縁体で,価電子結合にあずかっている価電子が励起されて自由電子となった後の結合の抜け孔を正孔とよぶ.エネルギー帯模型では,正孔は価電子帯中に存在し,+eの電荷と,電子と同じ静止質量をもつ仮想的な粒子として取り扱われる.真性半導体では,正孔は自由電子と同数であるが,これにアクセプターとなる不純物を添加することにより,正孔の数のみをいちじるしく増加させて,p型半導体とすることができる.正孔の移動度は電子のそれより小さく,また有効質量は電子のそれより大きい場合が多い.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の正孔の言及

【半導体】より

…すると空席を介しての電子の移動が可能となり,これも電気伝導に寄与する。この場合の事情はむしろ空席の運動に着目するほうが簡単であり,またこの空席は見かけ上正の電荷をもつので,これを正孔(ホール)と呼ぶ。すなわち伝導電子と正孔の両方が電気伝導に寄与するわけである。…

※「正孔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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