吸収スペクトルのある範囲が連続した吸収を示す部分をいう.吸収帯は,幅の狭いいくつかの吸収が連続的に重なったもので,写真法による測定では像に濃淡として現れ,吸収強度曲線として表せばいくつかのピークを伴った山として現れる.これらのピークは微細構造とよばれる.吸収帯は一般に,分子の吸収スペクトルに現れる.可視および紫外領域の吸収スペクトルは,分子の電子状態に関する基底状態から励起状態への遷移によるものであるから,電子スペクトルともよばれる.基底状態や励起状態には,分子の振動や回転にもとづく多数の状態が付随しているから,少しずつエネルギーの違ういろいろな振動状態や回転状態への電子遷移が可能であり,これらの遷移に相当して,わずかずつ波長の異なる光が吸収されることになる.このようにして吸収帯が現れる.回転状態による微細構造を伴う吸収は,気体状態に限られる.液体または溶液のスペクトルでは,振動状態にもとづく構造が崩れて吸収帯が一つの山として観測される場合が多い.一般に,電子スペクトルの吸収帯は,振動状態が電子状態に結合して現れるから,バイブロニックスペクトルとよばれることがある.吸収帯はまた赤外領域の吸収スペクトルにも現れる.この領域の吸収スペクトルは,分子の結合の伸縮振動や変角振動の振動状態の変化によるもので,振動スペクトルともよばれる.振動状態には回転状態が付随し,振動状態間の遷移には回転によるエネルギー差の異なる遷移が重なるため,吸収帯が現れる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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