励起子(読み)レイキシ

デジタル大辞泉 「励起子」の意味・読み・例文・類語

れいき‐し【励起子】

半導体絶縁体において、外部からの光などによって励起された電子と正孔クーロン力で結びついた対。特にその対を、結晶中を伝播する一つの中性の粒子とみなしたものをさす。エキシトン

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「励起子」の意味・わかりやすい解説

励起子
れいきし

電流を通さない非金属固体(絶縁体)では、電子はすべて原子に強く束縛されており、固体内を移動できない。このような固体に光を当てると、電子が光のエネルギー吸収して原子から飛び出し、固体内を動き回るようになる。吸収するエネルギーが不十分なときは、電子は原子から離れることができず、原子内のエネルギーの高い状態に励起される。しかし、励起された電子はいつまでもその状態にとどまることができない。電子は周囲の原子に束縛された電子と力を及ぼし合っているから、そのうちにそれらの電子の一つにエネルギーを与え、自分は元の状態に戻る。このようにして、電子に与えられたエネルギーは、原子から原子へ次々に伝わっていく。電子は移動せずに、励起(excitation)のみがあたかも1個の粒子のように固体内を動き回る。このような励起を、励起子またはエキシトンexcitonとよぶ。

 励起子の存在は絶縁体の光吸収に現れる。絶縁体にいろいろな振動数νの光を当てて、その吸収強度を測定すると、のような結果が得られる。電子の光吸収は1個のフォトンの吸収としておこる。フォトンのエネルギーhν(hプランク定数)が、ある閾値(しきいち)E0より大きいhν>E0)ときには、電子は固体内を動き回る状態に励起される。の高い振動数領域にみえる大きな山は、このような電子励起による光の吸収を示す。hν<E0のとき、そのような励起は生じえない。hν=E1の付近にみえるピークは励起子をつくりだすことによる光の吸収を示し、E1は励起子のエネルギーにあたると考えられる。

[長岡洋介]


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改訂新版 世界大百科事典 「励起子」の意味・わかりやすい解説

励起子 (れいきし)
exciton

絶縁体や半導体結晶中を波の形で伝搬する励起状態。例として同種の分子Mからなる結晶を考える。その中の一分子が,たとえば光子を吸収し,励起状態Mになったとする。しかしこのような状態は,結晶内においては,永続的ではない。すなわちこの分子がM→Mと基底状態に落ち,同時に隣の分子がその余分なエネルギーを受け取ってM→Mと励起された状態に変わることができる。このようにして励起状態は,一つの場所にとどまることなく,結晶内を自由に移動する。この場合,移動するのはエネルギーだけで,物の移動は起こらない。量子力学によれば,このような励起状態の運動は,結晶の周期性のため,平面波の形で表される。これは一種の等速度運動に対応し,波長λが運動状態をきめる。この状態は,ある一定のエネルギー(λによって多少変化するが)と運動量h/λ(hプランク定数)をもつ粒子のような性質をもつので,励起子またはエクシトンと呼ばれる。

 ここで述べた励起子はフレンケル励起子と呼ばれるが,ある種の結晶では,1対の伝導電子と正孔とが静電力でひき合って,連星のように両者の重心を中心として回転しながら結晶内を伝搬していく状態を考えるほうが現実の励起子に近い。この場合も,電子が正孔を埋めた基底状態よりも高いエネルギーをもつ励起状態であり,また電子とその抜け穴が対になっているので物の移動を伴わない。これをワニエ励起子と呼んでいる。

 励起子は光の吸収をひき起こす。その際1個の光子が結晶に吸収され,1個の励起子を生ずる。その吸収は一般に特徴的で,多くの分光学的研究が行われている。また励起子は結晶中のエネルギー伝達のうえでしばしば重要な役割を果たす。たとえば蛍光物質において,母体に吸収された紫外線のエネルギーは,励起子となって特定の発光中心まで運ばれ,そこでさらに可視光線に変わって放射される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「励起子」の意味・わかりやすい解説

励起子
れいきし
exciton

エキシトン (エクシトン) 。半導体や絶縁体結晶において価電子帯中の正孔と伝導帯中の電子はそれぞれ正負の電荷をもつため,クーロン引力による相互作用によって結合し,電子と正孔が対になって結晶中に生成されることがある。この電子-正孔対は水素原子に類似した粒子モデルで記述することができる。このような電子-正孔対を励起子または自由励起子という。励起子は電気的には中性であるのでその運動は電流輸送には寄与しない。また禁制帯中に水素原子と同様に離散的なエネルギー準位をつくる。このエネルギー準位は伝導帯の底からのエネルギー差として次式で与えられる。

En=(2π2μe4/h2ε2)/n2 (n=1,2,3,…)

ここに e は電子電荷の大きさ,h はプランク定数,εは結晶の誘電率であり,μは環元質量であって,1/μ=1/me*+1/mh* で表わされる。 me*mh* はそれぞれ電子と正孔の有効質量である。基底状態 ( n=1 ,すなわち E1 ) にある励起子に E1 以上のエネルギーを与えると励起子は電子と正孔とに解離する。通常この解離エネルギーは小さいので低温においてのみ励起子は安定に存在できる。また励起子は結晶中の中性またはイオン化ドナーやアクセプタなどの中心と結合することがある。このような励起子を束縛励起子と呼び,自由励起子と区別している。励起子のつくる準位が関係する発光または吸収スペクトルの詳細な観測は結晶中の電子状態に関する知識を得る手段としてきわめて有用である。

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化学辞典 第2版 「励起子」の解説

励起子
レイキシ
exciton

固体中の励起状態は,特定の分子に局在しないで同種の分子間を移動する可能性があるので,これを励起子とよんで,単なる励起分子と区別している.半導体や絶縁体中に生じる電子と正孔の対も励起子の一種である.

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世界大百科事典(旧版)内の励起子の言及

【素励起】より

…構成粒子がフェルミ統計に従う場合は,2個のフェルミ粒子が関与している。例としては,荷電粒子系での電荷の密度の変化に伴うプラズモンplasmon,3Heのように電荷をもたない系での密度変化によるゼロ音波,半導体中などで見られる電子と正孔の束縛状態としての励起子などがある。なお,励起子の場合,その密度を高くした状況,すなわち,高密度励起子の系は,近似的にボース粒子の集団とみなせる。…

※「励起子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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